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皇居をぐるりと取り巻く、暗い堀の水面に月が浮かぶ。
水面はさざなみも立てず、硬いテクスチャのように黒々としている。
歩こう、と陽一に導かれ足を向けたのは、外堀沿いの道だった。
歩道の道幅が狭く、ところどころ街路樹の根っこがアスファルトを押し上げて隆起している。
陽一はいつも、この外周を少し歩いてから元来た道を走って帰るんだそうだ。
「夜中でも皇居ランナーが居たりするし、警察官がぐるっと見回りしてる時間帯もあるから、見つかる危険はあるんだけどさ」
そう前置きしてから、陽一は「でも、」と顔を上げた。
視界が広く拓けていて、東京にしては珍しく大きな空を眺めていられるのが好きなんだそうだ。
「特にこの時間帯、こっちの空に月がよく見えるんだ」
言われるまでもなく、僕らの目は黄色く輝く満月に注がれる。
東京の明るい夜空に星は消えてしまうけれど、月は満ち欠けしながら僕らを照らしてくれる。
「……月を眺めながらずっと考えてた。考えれば考えるほど望が付き合おうって言うわけないって思ったし、付き合ったとて俺たちの関係が何か劇的に変わるかって言われたらそうじゃないし。
そもそも俺は望との付き合い方を変えたいって訳でもないのに、なんで俺は付き合いたいのかなぁ、とかさ。毎日どんどんわかんなくなって、望に連絡するのも怖くなって。
だから、はっきり言ってもらえてよかった。
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