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「……何で隣に座るんですか」
「何となくだ」
先輩はすぐにどこか行くのかと思ってたのに、何故か私の隣に座った。
もう、何で今日に限ってそういうことするのよ。期待、しちゃうじゃないのよ。
「……卒業か」
先輩が腕を組みながらふっと呟いた。
「何ですか、急に」
「高校生活、早かったなと思ってな」
「……」
先輩も先輩なりに感傷に浸りたいのかしら。普段からわけわかんないから、こういうとき、どう話せばいいのかちょっと悩む。くだらないことはぺらぺらと話せるのにね。
そんなことを考えてたら、先輩がじっと私を見た。え、何?
「……お前、今日は静かだな」
「ちょっ、人を年中お喋りみたいに言わないでください!」
何よ、いいこと言うのかと思ったのに!
「お喋りだろうが」
「否定はしませんけど、私にだって気分が落ち込むことくらいあるんですよ!」
「そうか? お前のことだから、俺が卒業するとなったら『先輩先輩、もうすぐ卒業ですよ!? 卒業してもちゃんとやっていけるんですか!?』みたいに言ってくるもんだと思ってたよ」
「先輩の私に対するイメージどうなってるんですか……。あとそういう声出せるんですね」
はあ……。まるっきりこの人には私の気持ちなんて伝わってないんだな、と改めて実感する。まあ、そもそも伝わるように伝えていなかった私に原因があるんだけどね。
先輩はまた前を向いて、かと思えばちらっと横目で私を見た。
「……お前、最近教室に来てなかっただろ」
「……何ですか、急に」
「何でもねえよ。ただ、最近お前の顔を教室で見ないと思っただけだ」
はじめはハンカチを拾ってあげたのがきっかけだった。それで、色々あって、気になる人になって、先輩の教室に通うようになって、よく話すようになって、いつの間にか先輩の存在が私の中ですごく大きくなってた。
進展の気配なんてかけらも感じたことがないけど、何かと無茶苦茶に理由をつけては先輩に会いにいっていた。でも、ちょっとは気にしてくれてたってこと?
「先輩、もしかして私に会いにきてほしかったんですか?」
「馬鹿言うな。お前の姿がないと、喧嘩でもしたのかとか、色々聞かれるのがうるさいだけだ」
「ですよねー。先輩ってテキトーでドライで無愛想ですもんね」
淡々と言い返すと、「ふん」と先輩が鼻を鳴らした。
「……」
しばらく横目で先輩を眺めていると、何だか動きたくなって、地面に積もっていた雪を丸めて、立ち上がった。
「どうした?」
「先輩の、バカ!」
先輩の顔めがけて雪玉を投げる。
「ぶっ!」
先輩の顔が雪まみれになった。勢いよく立ち上がる先輩。
「てめえ、やりやがったな!」
「ふふーん、ボーッとしてるからですよー!」
そこから二人して雪合戦。それから時間も忘れて投げ合って、先輩は全身雪まみれになっていた。
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