缶コーヒーと先輩

6/6
前へ
/6ページ
次へ
「おい、秋野」 「へ?」  肩に軽い衝撃が走る。隣を見ると先輩の顔。高校生じゃない、成長した先輩。ああ、私また心がタイムスリップしちゃったみたい。 「お前、またしょーもないこと考えてたろ」 「ちょっ、人が思い出に浸ってるところを邪魔しておいて、しょーもないとは何ですか!」  私は抗議の声を上げると先輩は「ほれ」と缶コーヒーを私の手に持たせた。 「何ですかこれ?」 「見りゃ分かんだろ。缶コーヒーだよ」  先輩の手にも缶コーヒー。私は自分の手元を見る。無糖のコーヒーだ。先輩の手元を再度見る。しっかり微糖のコーヒーだ。 「先輩、まだ無糖飲めないんですか?」 「……」  先輩は缶コーヒーのふたを開けて一口飲んだ。 「……」  私も缶コーヒーのふたを開ける。苦そうな香りが漂う。私は無糖は平気、昔から。  ただ。 「先輩……」 「何だ」  私はちらっと先輩を見る。先輩はやっぱり無愛想な顔を灰色の机に向けている。 「これとそれ、交換しません?」 「寝言は寝て言え」  先輩は私から缶コーヒーを奪うと、ぐいっと一気に飲み干した。  先輩はまた咳き込んでいた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加