1.家なき子 楓、全○の男と出逢う

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 私の部屋、202号室は、火元の斜め上に位置しているが かろうじて燃えずに済んだ。  でもよりによって、暑くてじめじめした季節だからと、熱気が籠もらないよう換気用の小窓を全開にして家を出た日だったため、そこから煤が入り込み、消火活動による水漏れで悲惨な状態となった。  何より臭いがすごい。マスクを二重にして中に入ったが全然ダメで、部屋全体が燻されたような臭いで充満している。  二週間前、前のアパートから引っ越す際にだいぶ断捨離したおかげで、荷物は少ない。少ないとはいえ、大切に使っていた家具家電などは、ほとんど使い物にならなくなった。  その夜から寝泊まりする場所が無くなった私は、最低限必要なものを旅行用のスーツケースに詰め込んで、焼け出されたアパートの最寄り駅前にあるビジネスホテルに滞在している、というわけだ。 「──それにしてもいいホテルだね、ここ。ビジネスホテルなのに こんなに豪華なロビーがあるとか……」 「でしょ? 前にテレビの特集で見て 朝のビュッフェも良さげだから、一度でいいから泊まってみたいと思ってたの。どうせ泊まるならさ~。私やつれたでしょう?」 「はは、ちゃっかり楽しんでるじゃん。ああ成るほど、火元の人の保険とかで、ホテル代くらいは出るのか」 「それが、全然出ないの。重大な過失がないかぎり、火元の家には何も請求できないって 法律で決まってるんだって」 「それ酷いね。楓は何も悪くないのに?」  故意でなければ、火事は誰も責められないらしい。自身の火災保険が無ければ大変な損害を被る、そんな事も 今回はじめて知った。  火事が起きたのが週の中日(なかび)だったため、木金は〝災害休暇〟という制度を使い休ませてもらったが、各種手続きや保険会社とのやり取り、その他諸々の後処理であっという間に過ぎた。思いの外やる事が多い。
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