1.家なき子 楓、全○の男と出逢う

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「アパート自体は、大家さんの火災保険でリフォームするなりなんとかするんだと思う、詳しく聞いてないけど。私の部屋は、家財がダメになった分は自分が加入してた保険からいくらかもらえるみたいだけど……」  お年を召している大家さんもパニック状態で、とても気の毒だった。年齢も年齢だからと、再建するかどうするかを含め、親族間で揉めているらしい。さらに気の毒過ぎる。 〝敷金は全額お返ししますから、申し訳ないけど別に部屋を探してもらえないかしら〟と、深々頭を下げられた。  大家さんも被害者だ。  そして私は入居してまだ、ひと月どころか一週間とちょっとの新入りの住人。  保障内容や権利云々を主張するつもりはなく、わかりましたと頷くしかなかった。 「これからどうするの?」 「一先ず住む場所を探さなくちゃね。いつまでもホテル暮らしをする訳にいかないし」  また、一から部屋探しですか。あーあ。  せっかく 心機一転、新しい部屋で新しい生活が、始まったところだったのに……。  良い部屋がぱっと見つかればラッキーだけど、骨の折れる作業である。 「さっき不動産屋さんに行って来たんだけど、時期的にあまりいい物件がないみたいでさ……同情してかなり一生懸命探してくれたんだけどね、あ、これとか 見てみて?」 「ん、どれ?」  スマホ画面に表示されている物件情報を、光華に見せる。 「駅から二十分以上か。……遠くない?」 「徒歩二十分だと何キロくらいあるんだろ。いい運動、散歩と思えば大丈夫じゃない?」 「えーでも、一回じゃなく毎日のことだよ? 毎日天気がいいわけでもないし、雨の日とか辛いよ? 残業の日とか遅い時間に歩くのも危ないし……あ、こっちの方がいいじゃん」 「ああ、そこはね、ひと月先じゃないと空かないの。退去日は決まってるんだけど、まだ人が住んでるから内見もできない」 「ひと月後か……今すぐにでも入居したいのだが……」 「そうなのよ、ひと月後では──」  妥協しまくって とりあえずどこでもいいから決めてしまうか、ひとまずマンスリーマンションなどを借りて、じっくり探すか。  月曜からは、できれば日常に戻りたい。  週末のうちに、今後どうするのか 方向性を決めなくてはと思っていた。 「──光華(みか)二川(ふたかわ)」  二人の名前を呼ばれて、顔を上げる。
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