3595人が本棚に入れています
本棚に追加
光華と顔を突き合わせて話をしていたところに、もう一人の待ち人、沖津 佳がやって来た。彼もまた私の同期であり、光華の彼氏でもある。
「ごめん、遅くなった」
「お疲れさま。逆に早かったじゃない」
「沖津君まで 忙しいのにわざわざごめんね」
優秀で有能な沖津君は 若手エース社員だ。けれど全くそう見えないくらい謙虚で温厚な人柄で、同期の皆が頼りにしているところがある。
光華のことをさりげなく大切にしていて、お互いに尊重し合っている、まさに理想のカップル。先のことを見据えて、最近彼らも一緒に暮らし始めたところだった。
「災難だったな、二川」
「大変ご心配をお掛けしました」
「朝食ビュッフェが美味しくて、やつれちゃって大変なんだって」
「それは大変だな、元気そうで良かった」
「だから元気だって」
「楓、しばらくうちに泊まれば? 佳もいいよね?」
「ああ、勿論いいけど」
「いやいや、ありがたいけどさすがにそれはナシよ、二人の愛の巣に一か月もお世話になるなんて、そんな空気読めなくないから」
「誰もひと月居ろとは言ってないわ」
二日前、突然 非日常に放り込まれて、やっぱり私ちょっと、神経が昂っていたみたい。いつも通りの二人の様子を見ていたら、ホッとして、ゲラゲラ笑って、心が凪いでいく。
静かに微笑んでいた沖津君が、ところで、と、話を切り出した。
「光華、あの話は したの?」
「いや、まだしてない。だって佳、聞いてみないとわからないって言ってたじゃない」
「あそっか、聞いたらオッケーでした」
「おおっ!? ほんとに?」
「え、なになに? 何の話?」
今日二人がここに来てくれたのは、心配で様子を見に、というのもあるけれど、今後のことで相談がある、という話だった。
相談は 私が一方的に乗ってもらうだけだが、なんだろう、どんな内容かは聞いていない。
なんとなく良い話っぽいけど。
「実はさ、俺の親戚が 学生向けに貸しているマンションがあるんだよ。場所は、F町」
「F町?」
学生向けの、マンション…………ほう。
最初のコメントを投稿しよう!