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「かーのこちゃーんっ。おかえりぃ」  玄関の前で、はしゃぐように声をあげる母が立っていた。  回れ右して逃げたかったけど、もう遅い。  ガシッと右腕に絡まれてしまった。 「もぉ~、遅いよ。この寒い中、ずぅーっと待ってたんだからねぇ」  もたれかかるように絡んでくる母からは、アルコールの匂いがする。  ……またか。なんでよりによって今日、帰ってきたんだろう。  こっちだって久しぶりの実家だったのに。 「別に待ってほしくないし。そもそも迷惑だし。っていうか、もう来ないでって言ったよね」 「やだぁ。かのこちゃんったら冷たぁい。お母さんに向かってそんなこと言うなんて」 「子供の頃に捨てて家を出ていった人をどうして親と思えるのよ。いい加減迷惑。とうとうお父さんも離婚決意したんだから、もう来ないでよ」 「ふふ~んっ。甘いわねぇ。お父さんはなんだかんだと、お母さんの事、愛しちゃってるからぁ」 「うそ! 今度こそって……」 「なめんじゃないわよぉ~。あんたよりお母さんの方が、お父さんの事よぉ~くわかってるのよぉ~」  右腕に寄りかかってくる体重の負荷が、ズシンと増した。  お父さん……また私よりこの人のことをとったんだ。  悔しくて涙が出そうになる。  幼い頃から何度も、新しいオトコの人と出会う度、母はなんのためらいもなく家を出ていった。  そうして早ければ一か月、長くても二年くらい。  いつもオトコに捨てられて、お金も居場所もなくなり家に戻ってくる。  そしてそんな母を、父はいつも受け入れるのだ。  そんな事が何度も繰り返されたから、私は父にお願いしていた。 「今度こそ離婚してよ」  これからの生活を考えたら、もう母に振り回されるようなことは、絶対に嫌だった。私だけならまだ我慢できるけれど、もう一人じゃないんだから。  なかなか首を縦に振ってくれなかった父が、この前ようやく了承してくれて、私は心底ほっとした。  それなのに……。
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