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 さっきまでの、だらんとした口調とはまるで違う叫び声に、母の方へと視線を向ける。  母は、倒れていた。  だらしなく、足を大の字に開いて。  この雪解けの日に不向きな赤いピンヒールが、少し離れた場所に落ちている。  転んだ、の?  滑った?  そろそろと這いずり母の元へと近づく。  まるで酔い潰れて眠っているかのようにも見える。 「お、お母さん?」  声をかけるも、反応はない。  頭を、打ったのだろうか?  さっきまでの耳障りな声を発しない、身じろぎもしない母。  その母に、はらはらと灰色の空から雪が舞い落ちる。  あの幼い頃、私を置いていった時と同じような雪。  ……このまま。  このままだったら。  勝手に転んだんだ。  雪で滑ったんだ。私は何もしていない。  そうよ。これは神様が私に味方してくれたんだ。
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