2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
『あの遭難事故はおかしいよ! ちゃんと調べよう!』
『やめてくれ! 俺が悪かった! それだけなんだ!』
『……分かった。ただ、十吉もおかしいと思ったら私に電話して。絶対に出るから! ……あと、結婚しないで……』
『勿論分かってるよ』
『そうじゃない! そうじゃ……。お願いもっと人を疑って! あなたは恩義を感じているみたいだけど、あの人は前からあなたのことを……。あの日、熱さえ出さなければ私も一緒に行ってたのに……』
俺は再三言われていた忠告を聞かず。
雪が降り続けた達也の命日に、俺達は別れた。
『十吉もおかしいと思ったら私に電話して。絶対に出るから』
その言葉を思い出し、俺は十四年振りに元婚約者に電話する。
しかし、通じなかった。
ドクン。ドクン。ドクン。
何故か俺の心臓が激しく鼓動した。
それはまるで、事故で亡くなった両親が帰って来なかったあの日みたいに。
俺は震える手でネット検索を行う。
海の名前で。すると一つの記事に辿り着いた。
それは十三年前の冬。
登山に行った女性が行方不明になり、現在も発見に至っていないとのことだった。
失踪者の名前は小林 海。俺の元婚約者だ。
海は、俺の両親が亡くなった年にあの山で亡くなっていた。
まさか……。
俺に芽生えた疑惑は確信に変わっていく。
雪は雪女じゃない! それよりもっとヤバい奴だ。
事実に気付いた俺は、警察に電話をするが、支離滅裂な説明をしてしまう。
それぐらい頭が割れそうに痛く考えがまとまらず、そのせいか悪戯電話と判断され電話は切られてしまった。
「頼む、聞いてくれよー! 俺の大切な人達が死んだのは……!」
俺は冷静ではなかった。
だって、この家で事実を叫ぶということは……。
『……とうとう思い出してしまったのね?』
俺の背後より、氷より冷たい冷淡な声が聞こえてくる。
「……あ、ああ……」
俺はまるで雪女に凍り付けられたかのように、身動きが取れなくなってしまった。
『ねえ、どうして約束守ってくれなかったの?』
そう言い俺に近付いてくる狂気に満ちた女には、雪女のような慈悲の心はひとかけらも持ち合わせていないようだった。
最初のコメントを投稿しよう!