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今日は昨夜のことを話している。
「けさのみずーわすれずにー」
おかしな歌を歌いながら、ねこがコップを持ってふこふこと歩いている。
マリーちゃんことマリーゴールドの鉢植えに今日のお水をあげるのはねこの順番らしい。
「お水こぼさないようにね」
念のため、声を掛ける。
「だいじょうぶー」
ねこは振り返りもせずにしっぽだけをふよりと揺らして答える。
「おうい、見てくれねこくん。こんなところにビー玉さんが」
突然どこからか飛び出してきたとりが、ねこにぶつかった。
「ああっ」
「うわー」
「ちょっとふたりとも何してるのよぅ」
「いやだってとりさんが」
「いやだってビー玉さんが」
コップの水を頭からかぶってよれよれしているふたりを持ち上げる。
「あー、これはふたりとも乾かさないとだめだね」
「でも、マリーちゃんにお水を」
ねこがじたばたする。
「うん、それは私があげておくから」
「ああっ、またビー玉さんが転がっていく」
とりが床のビー玉を手羽で指差してじたばたする。
「やっと見つけたとり電鉄のお客さんなんだぞ」
「はいはい、上にあげとくから」
とりあえずバスタオルを敷いて、ふたりをそこに置く。
床を拭いたり花に水をあげたりビー玉さんの置き場所を決めたりなんだかんだしている間に、とりとねこはバスタオルの上から勝手に下りて遊びだしていた。
「からだが重いよ、ねこくん」
「ぼくもです、とりさん」
そんなことを言いながら濡れた身体でずるずる動いている。
「こらー。タオルの上から動かないでよ」
「ちっ、みつかったか」
「みつかったかー」
ずるずるとバスタオルに戻ったふたりは、ひそひそと話している。
「サワダさんはジェントルマンだったな」
「泊まっていかなかったもんね」
「仕事が朝早いって言ってたからな」
とりがふこりと頷く。
「まじめな青年だ」
「マキの料理、おいしいって食べてたね」
ねこが言う。
「そんなにおいしそうに見えなかったのに」
うるさい。
「やさしいんだね、サワダさん」
「キスもやさしかったな」
「そうそう。ちゅって」
「ちゅっ」
「うふふ」
「うふふふふ」
「その会話やめなさい」
昨夜は動かないただのぬいぐるみのふりしてたくせに。
見るところは見てるな。
本当に恥ずかしいんだけど。
「次にサワダさんが来たときは、玄関にふたりの臨時のお部屋作るからね」
私が言うと、ふたりはバスタオルの上で抗議の声を上げる。
「えー、それはひどいぞー」
「おうぼうだー」
「知りません」
無視していると、そのうちにふたりは濡れた身体でデモ行進を始めた。
「マキの横暴を許すなー」
「ゆるすなー」
ずるずるずる。
「濡れた身体で動くなって言ってるでしょ」
捕まえるとふたりは、きゃああ、と嬉しそうな声を上げる。
「ほら、これでも見てて」
テレビの前にタオルを敷いてリッキーのトレーニングDVDを再生した。
「みんなー、今日の気分はどうだー?」
「最高です!」
「最高です!」
リッキーのおかげでふたりがやっとタオルの上から動かなくなったので、私も出勤の支度を始める。
次は、泊まっていってくれるといいな。
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