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今日は豆まきを所望する。
「おーい、マキー」
「マキー」
日当たりのいい出窓で、とりとねこが私を呼んでいる。
あそこはこの間までマリーゴールドのマリーちゃんと門松のカドマツさんの愛の巣だったけど、この前来たカンパさんの影響もあってか、とうとうマリーちゃんが枯れてしまってフリースペースに戻った場所だ。
マリーちゃんは、松の内をはるかに過ぎても寄り添ってくれていた彼氏のカドマツさんと一緒に旅立っていかれた。
一生懸命お世話をしていたとりとねこはさぞかしがっかりするだろうと思っていたのだけど、とりは、
「マリーちゃんは花なんだから、いつかは枯れるのが当然だ。むしろいつまでたっても枯れなかったら不気味だろう」
と言い、ねこも、
「カドマツさんと一緒に行けたんだから最高だよねー」
と言って、ふたりとも案外さばさばしていた。
化繊のけものたちの考えることはよく分からない。
で、それからまた出窓は元通りふたりの特等席になったわけだけど。
朝日を浴びながら、この出勤前の忙しい時間にふたりが私を呼んでいる。
「おーい、マキー」
「マキー」
「マキ、マキ、マキー」
「マキ、マッキマキー」
「マッキッキー」
返事しないで放っておいたら、だんだん適当に呼び始めた。ムカつく。
「何よぅ。忙しいんだけど」
仕方なく洗面所から顔を出してそう言うと、とりがふこりと手羽を上げた。
「マキよ、今日は節分だからな。豆を買って帰るのを忘れるでないぞ」
「でないぞー」
ねこも真似する。
「えー、豆まきするの?」
とりとねこが動いていなかった去年まで、この部屋で豆まきなんてやったことない。
豆なんてまいたら部屋が汚れるから、やりたくないんだけど。
「元から汚い部屋なんだから、今さら気にするなマキ」
私の心を読んだかのようにとりが言う。
「ま、まだ何も言ってないでしょ」
「マキの考える程度のことは分かる」
「わかるー」
とりが偉そうに腕を組んでふこふこと頷き、ねこも真似をする。
「節分は大事な行事だってテレビで言ってたぞ」
とりが言う。またテレビ発の知識か。
「芸能人は豆以外にもちとかお金とかをまくらしいが、マキは一般人だから豆だけでいい」
「やったねマキ!」
もう。仕方ないなあ。
「はいはい、豆ね。買ってきますよ」
「お面もね」
「はいはい」
あなたたちのサイズのお面なんてないよ。かぶったら鬼瓦みたいになっちゃうじゃん。
時間がないので、とりあえず返事してまたお化粧に戻る。
「ねえ、とりさん。どうして節分には豆をまくの」
「うむ。いい質問だね、ねこくん」
向こうでふたりが話しているのが聞こえる。
「豆は鬼の弱点なんだ。だから、豆をぶつけてやれば鬼は逃げていくのさ」
「よわっ。鬼よわっ」
「だが鬼は、豆以外のあらゆる攻撃を無効化する」
「あらゆる攻撃って?」
「地球上のあらゆる兵器の攻撃だ」
「兵器って、銃とか爆弾とか」
「うむ。そういうのは全部効かない」
「核ミサイルでも?」
「無傷だ」
「エターナルフォースブリザードをくらっても?」
「無傷だ」
「つよっ。鬼つよっ」
そのなんとかブリザードとやらは地球上の兵器に含まれるのだろうか。
疑問の残る会話だったけど、付き合ってたら遅刻する。はい、お化粧終わり。
「じゃあ行ってくるからね」
コートを羽織りバッグを引っ掴んで靴を履く。玄関でふたりに声を掛けると、ふたりは出窓からふこふこと手を振ってくれた。
「いってらっしゃーい」
「お仕事がんばってー」
優しい言葉を背にドアを開ける。
そのまま出ようとしたら、とりの声が聞こえた。
「マキはそとー」
「うふふふふ」
「あはははは」
「聞こえたよ」
私が振り返るとふたりは、きゃああああ、と悲鳴を上げて出窓から逃げていった。
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