今日は歓迎している。

1/1

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

今日は歓迎している。

 母から荷物が届いた。 「おお、本社から救援物資が来たか」  そんなことを言いながら、とりがふこふこと近付いてくる。 「どれどれ。何が入っているのかな」 「とりさん、ちょっと邪魔です」  偉そうにダンボールの真ん前に陣取ったとりを両手でどかす。  それでもとりはねこと一緒になって、少しでも早く中を覗こうとふこふこ身体を揺らしている。  さて、箱の中身はなんだろう。全然重くないから、お米とか缶詰じゃないみたいだ。  乾物だろうか。 「えいっ」  ダンボールの蓋を開けると、母の手紙とともにすごく意外なものが入っていた。 「ええっ」 「うおお」 「にゅにゅっ」  覗き込んだとりとねこが私と同時に声を上げる。  ええー……。  よりによって、こんなものを。  いや、こんなものといったら非常に失礼なんだけど。  だけど、でも。ううむ。 『どうせこっちには帰ってこられないのだろうから、送りますのでそちらで飾ってください。時期が終わったら、また送り返してもらっても構いません』  母の手紙には、そう書かれていた。  そして、ダンボールの中には。 「との!」  とりが叫んだ。 「ひめ!」  ねこも叫ぶ。 「たいへんだ!」 「早くお席を作らねば!」  珍しくふたりであわあわしている。  そう、ダンボールの中に入っていたのはひな人形。お内裏様とお雛様だったのだ。  いや、確かにもうすぐひな祭りだけど。  もうここ何年も家でお雛様を見てはいないけど。  ええ、申し訳ないな、とは思っていました。昔はこの時期に人形を出して飾ってもらうのがすごくすごく楽しみだったから。  だけど、そう来るとは思わなかった。  母め、考えたな。  家にはもちろん左右の大臣さんやお囃子さんといった面々もいるのだが、母もさすがに私の部屋のサイズを考慮してくれたのか、小さな畳や敷布と一緒に、メインカップルのお二人だけを出張させてきていた。 「との! ささ、出窓のほうへ!」  とりが何やら自分たちの特等席を譲ろうとしている。 「あしもとがお悪いですが!」  ねこがハンディクリーナーをもってきて床を掃除し始めた。汚くて悪かったな。 「とりさん、気持ちは嬉しいけど出窓に置いたら直射日光が当たっちゃうから」  私が言うと、とりは、がーん、という顔をした(ように見えた)。 「こ、ここはだめなのか」  とりはおろおろと部屋を動き回る。 「ええと、それじゃあ」  こんなに慌てているとりを見るのも珍しい。  やっぱりぬいぐるみも人形の仲間だから、人形界でのランクみたいなものがあって、お雛様のほうが格上なんだろうか。  面白いからしばらくこのまま見てようかな。  お雛様の居場所を考えいているとりとは対照的に、ねこは、うひゃーとか言いながらずっと部屋をクリーナーで掃除している。  もしも飲食店でバイトしたら、面倒な客が来ると急にバックヤードの在庫整理始めるタイプだな、このねこ。 「そうだ!」  とりの頭の上にぴこーん、と電球が灯った(ように見えた)。 「ねこくん、ちょこざぶだ!」 「はい!」  ねこがクリーナーを放り出す。ああ、もう。  ふたりは私がバレンタインにあげたチョコレート色のタオルのところに走っていく。  ざぶとん代わりに使ってるので、ちょこざぶという名前が付けられたそれは、今では部屋の隅で畳まれてとり電鉄の「ちょこざぶ駅」になっている。  とりとねこはためらわず駅を破壊して、タオルをテレビ台のテレビの横に敷いた。 「ささ、こちらに!」  テレビの横かあ。うーん……まあいいか。 「はい、それでは」  私はそう言いながらお内裏様とお雛様を箱から出して、タオルの上に移す。 「おじゃまします」  そう言ってあげると、ふたりは感激したように両手を上げる。 「ようこそおこしくださいました!」 「ました!」 「わー」 「ぱちぱちぱち」  とりとねこが手を叩く。  ぱちぱちぱち……と口では言ってるけど、ふたりのふこりとした手羽と手ではふかふかという気の抜けた音しかしていない。 「マキ! とのとひめはいつまでいるの!?」  いつまで?  ねこに訊かれて、私も考える。 「うーん……」  あんまりすぐに送り返すのも悪いし……かといって、こっちにずっとは置いておけないし。 「今月中旬くらいまでかなぁ」 「やった!」 「お祭りだ!」  いそいそとおちょこを用意し始めるふたり。さっそくかすみを飲むつもりだろう。  まさか、お雛様まで動き始めなければいいけど。  それはちょっと怖いかも。  私ははしゃぐふたりを見て、少し心配になった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加