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12:天使 綾人side
初めて彼を見た時、天使が落ちてきたと思った。
その日は学校に忘れ物をして取りに行くところだった。入学式があるから一応担任に連絡をして、10時頃に行くと言っていたのだが、少し早く出て公園で本でも読んでいようと思い、通学路である桜並木を歩いていたとき、突然上からたくさんの桜の花びらが落ちてきて、上を向いた。
上を向いた先には天使がいた。
かわいい顔をした男が、花びらをまといながら落ちてきてまるで天使のようだった。
まぁ、本物の天使なわけないのだが、その瞬間はそう見えたのだ。
大量の花びらと共に落ちてくる彼は大声で叫んでいた。
「 避けてぇぇぇー!」
「....?」
____どしん
「うぅ……」
「…………」
叫び声はちゃんと聞こえたのだが、咄嗟に避けることができずにぶつかってしまった。
彼は体や頭に花びらをのせて、唸っている。
彼はこちらに気づいてないようだったが、俺の顔を見るなり、慌てだした。
「うわぁあああ!ごごごごめんなさい!大丈夫ですか?!今すぐどきますね!?」
「………あぁ」
「ミャーン」
彼は猫を抱いていて、なぜ落ちてきたのかが何となくわかった。猫のために木に登って落ちたのだろう。
この桜の木はこの辺りで1番大きな木なのだが、そんなとこから落ちてきた彼と猫に怪我はないだろうか。
「本当にすみません…怪我ないですか?」
「…あぁ特に問題は無い。」
「猫を助けるために木に登っていたら落ちてしまって。怪我がなくて良かったです。」
「…君達も怪我はないか。」
「はい!僕は全然大丈夫です!猫ちゃんも大丈夫そうです。」
「ミャー」
怪我はなかったようだ、よかった。
よく見ると彼はうちの高校の制服を着ていた。
この時間にいるということは新入生だろうか、もうそろそろ入学式が始まるので早く行った方がいいだろう。彼も入学式に遅刻はしたくないだろうしな。
「……もうすぐ入学式が始まる。新入生なら早く行った方がいい。」
「はい!ありがとうございました。」
「………フッ…」
彼の髪に桜の花びらが何枚か絡まっていてなんだかファンシーな見た目になっている。
このまま入学式に行くのだろうか、頭に桜をのせたまま入学式に出ている彼を想像したら、思わず俺は吹き出してしまった。
「………?どうしたんですか?」
「いや…気にしないでくれ。」
「そうですか?じゃあ僕はこれで失礼します。」
「……猫も連れて行くのか。」
「あっっ!そうだった、この子どこの猫ちゃんなんでしょうか… 一応首輪?というか赤い紐?
みたいなのが あるから飼い猫なんでしょうか?」
「……君は入学式があるだろう。俺はまだ登校時間では無いから何とかしておこう。」
「本当ですか!ありがとうございます!!」
ここで迷子になっていた猫なら近くの住宅街から来たのだろう。彼は今から入学式だ、俺が預かっておかないと入学式に行けないだろう。まだ10時までは時間があるし、猫の飼い主を探す時間はあるだろう。
そう思い俺は彼から猫を引き取った。
彼は俺に猫を預けると急いで去っていった。
とても面白いやつだった。
また、会えたら。そう思いながら俺は住宅街の方へ足を進めた、まさかこの後、彼を好きになるとは知らずに。
___fin
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