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7:自覚
今日は待ちに待った体育祭だ。
僕の学校では、体育祭の席順は特に指定は無いらしく、各組の場所でクラスでまとまって座っていればいいらしい。
僕は事前に黒田先輩と約束して、近くに座ることになっていた。
「黒田先輩!青川先輩!」
「あっ!小太郎ちゃーん!」
「おはようございます。黒田先輩!青川先輩もおはようございます!」
「小太郎ちゃんは朝からほんと元気だねぇ。…あれ、そっちの子は?」
「小太郎と同じクラスの緑川俊介です。」
「先輩、俊介くんも近くの席でもいいですか?」
「あぁ、全然構わない。......青山も近くがいいそうだが、いいか?」
「ちょっと!綾人なんでそんなに嫌そうなの?!」
「はい!全然大丈夫です。」
_____もうすぐ第37回、佐川高等学校 体育祭が始まります。用のない生徒は着席してください。
「とりあえず座りましょうか。」
「そうだな、そろそろ始まる時間だ。」
席順は、俊介くん、僕、黒田先輩、青川先輩の順番で座ることになった。
体育祭は8時半から2時半まで行われる予定だ。その時間ずっと黒田先輩の隣……嬉しすぎてまだ始まってないのにワクワクしてきた。
「小太郎、嬉しそうだな。」
「うん!黒田先輩と1日隣だからね!」
「……やっぱり小太郎さ、黒田先輩のこと……」
「ん?黒田先輩が何?」
「………ほんとに鈍いんだな。」
俊介くんと話しているうちに 体育祭が始まった。
最初は3年生の100メートル走からだ。
僕の出番は次の次の100メートル走までは無い。
ちゃんと自分のチームの応援をしつつ、先輩と話をしていた。
「桃井はなんの競技に出るんだ?」
「僕は100メートル走と借り物競争です。借り物競争で変なお題がでないといいんですけど...なんか緊張してきちゃいました...」
「確か去年の体育祭では変なお題が多かった気がするな。青川もよく分からないお題を引いていた。」
「ちょっと綾人〜それ思い出させないでよ〜」
「なんのお題だったんですか?」
「……ランドセル」
「え?ランドセル?」
「高校の体育祭にランドセルなんて誰も持ってこないだろ」
「俊ちゃんもそう思うよね?!」
俊介くんは冷静なツッコミをしていたけど、僕は心配になった。
僕もそんなの引いたらどうしよう。緑の服の人、とか青の靴下の人、とか簡単そうなのにして欲しい...
というか、青川先輩が俊介くんのことを俊ちゃんって呼んでいた。もう2人は仲良くなったようだ。確かに少しおバカ?な青川先輩と面倒見が良さそうな俊介くんは仲良くなれそうだ。
青川先輩の話で盛り上がっていると、僕の出番になった。
「頑張ってこいよ、小太郎。」
「うん!任せといて!1位になってみせるよ!!!」
「小太郎ちゃんがんばって〜」
「頑張れ。慌てて転ぶなよ。」
「大丈夫ですよっ!」
100メートル走の僕の順番は最後の方なので、近くにいたクラスメイトと話しながら待っていた。
一緒に走る人は知らない人だらけで、緊張しまくりだが大丈夫だろうか。
考えてるうちに僕の番は次になっていた。
____位置について、よーい……パァン
……結果は1位!最初の緊張が嘘みたいに圧勝だった。
運動神経は悪い方では無いので、1位になることが出来た。
以外に楽しかったので100メートル走を選んで良かったかもしれない。
それから、全員が走り終わり自分の席に戻った。
「1位でした〜!」
「見てたよ〜なんかピューんって感じで速かったね〜小太郎ちゃんがうさぎに見えたよ。」
「あぁ、あんなに速いとは思わなかった。」
「小太郎は意外に体育できるからな。」
「意外ってなにさ意外って!」
俊介くんの失礼な言葉に怒りながら僕は席に座った。
次は先輩たちの100メートル走だ。
黒田先輩が走っているところを見たことないが速いのだろうか。
先輩は筋肉とかあるし、身長が高いから歩幅も広いきっと速いのだろう。
「先輩!頑張ってくださいね!」
「あぁ...ありがとう。」
「俺に任せといて!一瞬でゴールしてみせるからね!」
「青川先輩、転ばないでくださいね。」
「俊ちゃん酷い!」
先輩達が校庭の中央に行ったあと、2年の100メートル走が始まった。
黒田先輩の順番は後ろの方で、青川先輩の順番は真ん中のようだ。
先輩2人の順番が来るまで、他の青組の2年生の応援を俊介くんとしながら待っていた。
「あっ、次青川先輩じゃないか?」
「え、どれどれ?...ほんとだ!」
次は青川先輩が走る番のようだ。
青川先輩はバスケ部に入っていると、お昼を食べている時に言っていたから運動神経はいいのだろう。
_____位置について、よーい……パァン
「…………え?いや、はっや。青川先輩って足速いんだな。」
「えぇ?!速すぎない??陸上部の人みたいだったよ!」
青川先輩は、表すならチーターとかだろうか。
陸上部の選手と同じくらいに速かった。
なんだか意外だ、いつもふざけている感じなのにあんなにかっこいいなんて。
「……あっ。ほら小太郎、黒田先輩が走るみたいだぞ。」
「ほんとだ!!黒田先輩っっ!!頑張れー!!!」
「ちょ、小太郎落ち着いて、白線の内側入りそう。もうちょい下がって。」
____位置について、 よーい……パァン
「ふぁあああ!黒田先輩かっこいい!」
「もう、ほんとに小太郎ってば……」
「だってだって!黒田先輩もめっちゃ速いよ!」
黒田先輩も青川先輩と同じくらいに速かった。
やっぱり先輩は何しててもかっこいいなぁ……
僕が騒いでいるうちに先輩達が戻ってきた。
「どうよ!俺の走りは!!!ちょー速いっしょ!100メートル走は11.08秒なんだよ!すごいっしょ!」
「はい...転ぶと思ってたのに意外でした。」
「酷いよ俊ちゃん!転ぶのちょっと期待してたでしょ!褒めてくれてもいいじゃん!」
「……はいはい、」
「黒田先輩!めっちゃかっこよかったです!なんかもうやばかったです!!!」
「落ち着け桃井、でもありがとう。」
「小太郎ちゃんほんとに綾人のこと好きだねぇ、」
「ほんとですよね、すごいわかりやすい。でも本人は気づいてないんですよ。」
「うわぁ...まぁ小太郎ちゃん鈍そうだよねぇ」
「??なんですか?」
「「はぁ……」」
なんだか2人に呆れられた気がしたが気のせいだろう。
2年の100メートル走の次は借り物競争だ。
青川先輩みたいな変なお題はは嫌だな……
まともなのを引ければいいのだが……
前の人達がゴールして、僕の列の順番がきた。
___位置について、よーい…...パァン
ピストルがなった瞬間、僕は走り出した。
スタート地点からすぐの場所にお題箱があって、くじ引きのようになっている。僕は急いでお題の書かれた紙をとる。
そして紙を開いた。
「……かっこいい人……」
変なお題ではなかったが、なんだか恥ずかしいお題だ、問題は誰について来てもらうかだ。
「...そんなの1人しかいないじゃん、」
僕は青組の観客席に走った。
もちろん目指すは黒田先輩のところだ、僕の中のかっこいい人は先輩以外にありえない。
「く、黒田先輩!ついてきてもらえませんか!」
「俺か?...わかった。」
僕は黒田先輩と一緒にゴールまで走った。
まだ他の人はゴールできていないようで僕達が1位だった。
「お題を見せてください。あっていたらゴールです。」
僕はゴール前に立っていた赤組の先輩にお題の紙を渡した。
なんだか見せるのが恥ずかしい気もするが見せないとゴールにならないから仕方ない。
「えっと、かっこいい人……はい!ではお題クリアですね。1位おめでとうございます。」
クリア出来たみたいだ、この先輩から見ても黒田先輩はかっこいいということだろうか。
まぁクリア出来たからよかった。
「...かっこいい人...そんなお題だったのか、」
「えっと、はい!このお題を見たときに、黒田先輩しかいないなって思ったんです。」
「……そうなのか。ありがとう、そう思ってくれて嬉しいよ。」
なんだかお互いに恥ずかしくなってしまって、気まずい空気になってしまった。
でも黒田先輩がかっこいいのが悪いと思う。
その後も借り物競争は続き、全員が終わり自分の席に戻った。
「お疲れ様〜小太郎ちゃん」
「お疲れ様。」
「青川先輩に俊介くん!ただいまです。」
僕がそう2人に言った直後、後ろの方で女の子の悲鳴が聞こえた。少し遠かったせいかあまり聞こえなかったが、悲鳴が聞こえたあとも何かを叫んでいるようだった。
僕達は悲鳴が聞こえた方に行ってみることになり、走っていった。
何があったのだろうか。
「なになにどうしたの〜?」
「青川くんに黒田くん!」
「どうしたんだ。」
悲鳴をあげた女の人は先輩達の知り合いだったようで名前を呼ばれていた。
その女の人は、ぐったりとした人を抱えており、酷く焦った様子だった。
「ここで一緒に借り物競争を見てたんだけど、急にこの子が倒れちゃって、私じゃ重くて運べなくて保健室に連れて行けなくて……」
「今日は暑いから熱中症かな...意識はあるみたいだけど、早く保健室に連れていった方がいいね。」
「あぁ……俺が連れて行こう。背中に彼女を乗せてくれ。青川は桃井達を頼んだ。」
「はいはい、任せておいて。」
そう言って黒田先輩は保健室に急いで行ってしまった。
……なんだかモヤモヤする、なんでだろう。
倒れた女の人が黒田先輩におんぶされているからだろうか。でもあの人はすごく苦しそうだったし、しょうがないのは分かっているのだがなんだか苦しい。
なんでこんな気持ちになってしまうのだろう。
「ねぇ俊介くん、僕なんだかモヤモヤする……」
「……黒田先輩とあの女の人のことか。」
「うん...苦しそうだった、だから助けてあげなきゃいけないのに、なんだかモヤモヤする...」
「…………それって、黒田先輩に…………恋してるんじゃないか、」
「…………なんて?」
「だから...黒田先輩に恋してるんじゃない?」
「僕が、黒田先輩に...?恋?...それって好きってこと?」
「そうだと思うけど?小太郎、すごくわかりやすいのになんで自分じゃ気づいてないんだよ。」
俊介くんにそう言われると、なんだだか心がぎゅっとした。
確かに黒田先輩のことはかっこいいって思うし、好きだな、憧れるなって思うけど、それが恋だなんて全然思ってもみなかった。
僕の中で、恋しているという言葉が綺麗にはまった気がした。
先輩への思いが恋だと意識してしまうと、なんだか顔が熱くなってきた。
「そっか、僕…黒田先輩に恋、してるんだ。」
「...やっと自覚した?」
「……した...」
そこからの体育祭はほとんど覚えていない。
黒田先輩が途中で戻ってきたのだが、先輩を見た瞬間に思い切り意識してしまってまともに顔が見れなかった。
黒田先輩は不思議そうにしていたが、その時の僕はまともに話せる状態じゃなかった。
青川先輩と俊介くんは終始ニヤニヤしていて少しイラッとしてしまった。
そんなこんなで、高校生最初の体育祭は無事?終わったのであった。
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