8:夏休み

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8:夏休み

体育祭が終わってから、2ヶ月ほどたった。 今日までの2ヶ月間は、先輩達と俊介くんでお昼食べたり、土曜日に青川先輩の家に集まってゲームをしたり、テストに追われていたり、色んなことがあった。 体育祭のときに恋を自覚してから、黒田先輩を意識してしまって、なかなか顔を見られなかったがここ最近は落ち着いて接することに慣れてきたところだ。 最初の頃より、先輩と過ごす時間が多くなって僕は毎日がとても幸せだ。 少しでも先輩との距離が縮まっているといいのだが... そんな僕は今、図書室に来ていた。 あと4日で夏休みになるのだが、夏休みの課題にレポート提出があって、そのレポートを書くために必要な資料を図書室に探しに来たのだ。 そして、20分ほど探してやっと見つけることができたのだが、高い位置に本があるせいで取れずに困っているところだ。 頑張ってジャンプをすれば取れるかもしれない。 「…ほっ!はっ!……おりゃぁ!…全然取れないなぁ。も〜!なんで台がないんだよ〜高校生がみんな背が高いと思うなよ〜!!!…おりゃ!」 「…この本が取りたいのか。」 「えっ!黒田先輩?! 」 僕が本と格闘していると、後ろから手が伸びてきて僕の取ろうとしていた本を掴んだ。 後ろを振り向くと黒田先輩が立っていて、本を渡してくれた。 「黒田先輩!ありがとうございます!」 「あぁ。…その本は何に使うんだ?」 「夏休みの課題にレポート提出があるんですけど、その資料に使うんです。」 「そうなのか。夏休みの課題は早めに終わらせておけ、最終日までやらずに一夜漬けで終わらせたりするなよ。」 「…は、はい。頑張ります……」 「……去年の夏はどうだったんだ。」 「…最終日に、答えを……」 僕は毎年、小学校の時から夏休みの課題を計画的に終わらせることが出来ていない。 今年もきっとそうなるだろう…今だって、図書室で本を探していたが、借りたところで夏休み最終日までこの本は使わずにしまわれるだけだろう。 「答えを写して提出しているのか…はぁ…なら一緒に図書室で勉強しよう。俺が教えるから、今年はちゃんと終わらせるんだ。」 「えっ!いいんですか!ぜひ教えてもらいたいです!」 「やる気はあるようだな。」 そうして僕は、夏休みに先輩と会う約束をすることが出来た。 それに先輩と勉強をすれば僕のやる気が出る、今年こそ計画的に課題を終わらせることが出来るかもしれない。 それから1ヶ月後、夏休みもとっくに始まり、先輩との勉強会も今回で10回目になっていた。 「先輩、ここが分からないんですけど…」 「そこはこっちの公式を使うんだ。それに計算も間違っているぞ、58ではなく45だ。」 「……ほんとだ!ありがとうございます!」 先輩の教え方は分かりやすく、数学が苦手な僕でも分かりやすいように説明してくれて、どんどん問題が減っていく。 このままいけば数学の課題は終わるだろう、教えてくれている先輩には感謝しかない。 ひとつ問題があるとすれば、先輩がかっこよすぎることだろうか。図書室はクーラーがあるので、とても涼しいのだが、やはり夏は暑く先輩も僕も少し汗をかいていた。 その汗がなんだか色っぽくて、僕はたまに集中できなくなるときがある。ついつい先輩の首元を凝視してしまうのだ。そんな時は先輩が僕のおでこをつついて「集中しろ。」と言うのだが、そんなとこもかっこいい。 僕は時々先輩を見つめながら数学の課題を終わらせた。 「……終わったぁあ!先輩!数学の課題終わりました〜!」 「よかったな、こっちももう終わるから少し待っていてくれ。」 「わかりました!」 僕は先輩の課題が終わるまで、することがなく図書室を見渡していた。普段あまり図書室に来ないので、なんだか楽しかった。 「ん?このポスター……」 __佐川町 緑ヶ丘公園 緑祭り 8月××日〜8月××日 高校の近くの公園でお祭りがあるようだ。 緑ヶ丘公園はだいたい校庭2個分の少し広めの公園だ。参加したことは無いが、よくイベントをやっているイメージなので、そこそこ大きい祭りなのだろう。 毎年家の近所のお祭りに友達と行っていたのだが、今年は誰とも祭りに行く約束をしていない。 「緑ヶ丘公園のお祭りか…3日後にあるのか…先輩、誘ったら来てくれるかな、」 「何を見ているんだ?」 「うわぁ! 黒田先輩!」 気づいたら先輩は僕の横でポスターを見ていた。 今、一緒に行きたいと誘ったら一緒にお祭りに行ってくれるだろうか… 先輩はもう誰かと行く約束してるのかな… 「…あの、先輩…」 「夏祭りか…桃井、俺と一緒に行かないか?…誰とも行く予定がなかったらの話だが…」 「え、行きたいです!僕先輩と一緒にお祭り行きたいです!」 「ならよかった。それじゃあ、3日後の5時半に緑ヶ丘公園に集合でいいか?」 「はい!楽しみにしてますね!」 なんだか勉強会もお祭りも、僕の都合のいいように決まりすぎではないだろうか… 夏休みに入ってから先輩と一緒に勉強して、先輩とお祭りに行く、こんなに先輩と一緒にいられて幸せすぎる…これはもしかして夢なんだろうか、夢なら覚めないで欲しいと僕は強くそう思った。
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