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ジンが思っていること
眩しい――。初めてリヒトくんに会った時の感想はその一言につきる。
最上位種を凄いと思ったことはなかったが、リヒトくんには勝てないなと感じた。それほどの光をリヒトくんは放っていたんだ。
「私達は最上位種よりも優れているの」
それが母さんの口癖だった。上位種の中でも最低ランクの黒耳だから能力を正当に評価されていない、と常に怒っていた。
母さんは最上位種よりも優れていることを証明するために俺を産んだのだと言っていた。母さんが教育するのだから最上位種を凌駕する存在になれるのは確実だ、と。
物心ついた時から、母さんの立てたスケジュールに沿って生活してきた。起きている時間のほとんどは勉強にあてられていた。苦痛ではないのかと誰かに聞かれたことがあったが、教えられたことを真似てやるだけなので楽だった。
スクールでの成績は常にトップだった。習ったことしかテストに出ないのだから、満点をとるのは簡単だった。体育や音楽なども、見本があればその通りにできた。
だけど、見本がなく自分で考えなければならないものはやり方が分からず、全くできなかった。
就職先も母さんが決めた。東都にある一流企業で、母さんが働きたかったのに耳色のせいで採用されなかったと怒っていた会社だ。
筆記試験は問題なかった。だが、面接が事前のシミュレーションとは全く違っていて、質問に一言も返せなかった。
就職試験についてきていた母さんにそのことを言うと、絶句して会社の前で蹲ってしまった。石のように動かない母さんへの対処法を教えられたことはないので、ぼんやりと見下ろしていると社長に声を掛けられた。
アイドルがなんとかと言われてもよく分からなかったので無言でいると、母さんが立ち上がって社長と話し始めた。そして、俺の就職先がCプロダクションに決まったのだ。
リヒトくんは母さんのように全ての行動を指示してはくれない。だから、どうしたらいいのか分からない時はリヒトくんの真似をするのだが、今まで真似てきた時とは違う感覚を覚える。
特に飯が雲泥の差だ。母さんが出していたのは栄養をバランスよくとる薬のような飯で味がしたことはなかった。飯とはそういうものだと思っていたのに、リヒトくんが出してくるものは全部味がして、もっと食べたいと思えるものばかりだ。
リヒトくんと一緒にいて、リヒトくんと同じことをするのは楽だ。でも、母さんの言う通りにしていて感じていた楽とはなにかが違う。
リヒトくんは、飯がうまいとか、歌や踊りがうまくできたとか、満足した時に控えめに笑う。キラキラしているその顔をずっと見ていたいなと思う。眩しいのに目を瞑りたいとは微塵も思わないから不思議だ。
リヒトくんの顔を曇らせる敵から護らなければいけないと思う。母さんから教えられていないことなのに、そうするべきだとなぜか分かる。
「あなたは最上位種の中でも最上の金髪碧眼の相方に相応しいと選ばれたの」
東都に向かう俺に、母さんが誇らしげに言っていた言葉。
俺にはリヒトくんみたいな光があるとは到底思えないけど、リヒトくんの隣は居心地がいいのでずっと一緒いたいとは思う。
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