きょうりゅのあかたん

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きょうりゅのあかたん

アンキロサウルスのバブちゃんの大きさはファンタジーでお送りしています。 いや全体的にすべてファンタジーです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  森の中から姿を現したのはとんでもなく大きな緑色の恐竜だった。  体長はパーシヴァル6人分くらい。顔が大きく、落ちくぼんだ小さい目がぎょろりとこちらを向いていた。  後ろ脚は太く大きいが、前脚は胴体にちょこんとついているだけ。それがアンバランスと言えばアンバランスだが、その鋭い爪は人間の肉など簡単に引き裂いてしまいそうな迫力がある。  そしてなにより、今にもパーシヴァルを食べてしまおうというほどに近づいている口と牙。(よだれ)()らした長く鋭い舌。 「肉食恐竜か」  パーシヴァルはこの時代に来てはじめて真剣な表情を見せた。 (だな。しかもかなり強そうだ)  ズン、ズンと足音を響かせて、同種の恐竜がさらに2体姿を現した。 「単独行動をしないあたり、知恵を備えているとも見える」  みな涎を垂らしてパーシヴァルを見ている。腹が減っているらしい。 (気をつけろパーシー。あの爪と牙に当たればひとたまりもない) 「分かっている。下っ端の魔族などよりも戦い甲斐がありそうだ!」  槍と喋っているパーシヴァルに正面の恐竜がぐんと顔を突き出してきた。  大きく開いた口にそのままパーシヴァルを収めてしまおうとしたようだが、獲物の男は大きくジャンプして(かわ)す。  そこへ、もう一体の恐竜が突進してきた。 「ほう、連携プレーか!」  さすがに避けられないと判断したパーシヴァルは聖槍ロンゴミニアドを高く掲げ、恐竜の額に力いっぱい突き刺した。森に絶叫が響き渡る。  刺したロンを軸にして恐竜の背に着地したパーシヴァルは、振り落とされる前に近くの木の上に飛び移った。 「グギャアアアアアアアア!!!!」  槍を刺された恐竜は痛みと混乱で我を忘れ、目の前にいる仲間に突っ込んでいく。 「ガアアアアア!!!」  お互いに噛みつく恐竜たちを見守っているパーシヴァルは、手で額の汗を拭った。 「槍で数回攻撃したところであれだけ大きな生物に致命傷を負わせることは難しい。なんとか共倒れになってくれればよいが」 (パーシー。まだ奥に1匹いるぞ)  もう一匹の恐竜はパーシヴァルを探しているようだった。  だが手前の二匹が共食いを始めたことと、周囲に立ち込める土埃(つちぼこり)が障害となってこちらの居場所は把握できていないようだ。 「あまり目はよくないみたいだな」 (とはいえこの2匹が共食いに飽きたらまた3匹全員相手をしなければならん) 「ああ。今のうちにあいつの脚を潰しておこう」  パーシヴァルは木々を飛び移り、奥にいた恐竜の後ろ脚めがけて飛び降りる。  ロンゴミニアドに魔力を蓄え、槍の刃先が風の回転を帯びる Gouging spear(ガウジング スピア)を見舞えば、恐竜の巨体は大きな音を立てて倒れた。  手足をジタバタと動かしているが、後ろ脚が使えないのでは立つことはできない。  この機に乗じてパーシヴァルは森を離れようとした。  そのときだった。  3体の肉食恐竜が現れた方向のさらに奥、森の中から何か声が聞こえたのだ。 「―――――?」 (どうしたパーシー) 「今、悲鳴が聞こえたような」 (悲鳴?)  それは肉食恐竜たちの絶叫とは違うタイプの悲鳴だった。  悲しく、か細い。  “助けて” (あっ、コラ! パーシー!?)  パーシヴァルは方向を変え、森の中へと走り出した。  またあの3匹に襲われる可能性もある。  だが、パーシヴァルは騎士だ。 「助けて」という声を聞いて、手を差し伸べないわけにはいかない。  槍を持ったフンドシスタイルの騎士が森の中を駆け抜けていると、ふと独特の臭いが鼻についた。  これは血の臭いだ。  パーシヴァルがあたりを見回すと、草食恐竜と見られる生き物たちが無残に殺されていた。 傍には卵の殻も散乱している。どうやらここは草食恐竜の繁殖地だったようだ。 「なんとも(むご)いことを……」  パーシヴァルは眉をひそめた。  恐竜と言えど、まだこの世に生を受けたばかりの子たちだ。弱肉強食の世界と理解はしているが騎士の心は痛んだ。  丁寧に集められた草が柔らかいベッドを形成していた。  親が子を慈しみ作り出した巣。人も恐竜も営みは変わらないのだ。 (さっきの3匹が食ったのかもしれんな) 「ああ……そうだな。くっ……」  顔を(そむ)け涙をこらえるパーシヴァルだったが、再びハッと顔をあげた。 (どうした) 「さっきの声だ」  パーシヴァルは草で作られたベッドの中を覗き込む。卵の殻が散乱している、その下。  もぞもぞと動く小さなものが一匹。 「もしや……生きているのか!?」  草と殻をかき分けて両手を差し伸べる。  パーシヴァルが取り出したのは……  両の手に余るほど小さな()()()()()だった。
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