クルミおいしいぎゅわわ

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クルミおいしいぎゅわわ

 アンキロサウルスの赤子はパーシヴァルの周りをよちよちと歩いた。  一夜明けて怪我はかなり良くなったようだ。また、全体的に少し大きくなっている気がする。 「回復が早いな」 (恐竜だからもともと回復力が高いんじゃないか)  さすがの回復力、成長力である。  しかし昨日は本当に命を落としかねない状況だった。  ゆっくりとではあるが自分の足で歩くことができるようになった赤子を見て、パーシヴァルは満足そうに顔をほころばせた。 「よかった。本当によかったな」  アンキロサウルスはまるでパーシヴァルの言葉が分かるかのように、呼応して「ぎゅわわ~」と鳴いた。 「そういえばこの恐竜、何か食べさせてやらないといけないのではないか?」 (草食恐竜だからそのへんの草を食べさせておけばええんちゃう) 『これで解決!原始時代生活百科事典』によると、「葉っぱ、木の実」と書いてある。 「葉っぱか……。葉ならなんでもいいのか?」  パーシヴァルと槍が会話をしていると、アンキロサウルスはのそのそと別の方向へ歩いていく。 (おい、チビちゃん。遠くへいくと危ないぜ)  パーシヴァル以外にはロンゴミニアドの声は聞こえない。  槍の主が慌てて赤子を回収しにいくと、アンキロサウルスは以前パーシヴァルが編んだ木の籠の前で止まった。 「ん? これが気になるのか」 「ぎゅ~わっ」  この籠の中には、長期保存が可能な木の実やキノコ、まだ熟していない果物などが入れてある。  もしかしたらこの中の食べ物の匂いにつられたのかもしれない。  パーシヴァルが籠を横に向けて中身を示すと、赤子は短くて太い前脚を一生懸命動かして籠の中から木の実を2つ取り出した。  コロコロと転がる茶色くて固い実。クルミだった。 「クルミか。これが好きなのか?」 「ぎゅわわ」 「じゃあ殻を取ってやるからちょっと待っ……」  しかしアンキロサウルスは自分の前脚で必死にクルミを転がしている。安定する位置に置けたようだ。すると、何やら後ろを向いてもぞもぞしている。  何をするんだろう、とパーシヴァルとロンが見詰めていると、突然お尻をフリフリし始めた。 「!?」  尻に次いで、尾も動き始める。  勢いをつけるようにブンブンと尻尾を降り、狙いを定めて尾っぽの先についている骨塊のハンマーをガチィンとクルミにぶつけた。  それを3回ほど続けると、クルミの固い殻が割れた。 「な、なんと!!!!!」 (これはすごい)  パーシヴァルは号泣した。  心境としては、親が初めて我が子のハイハイを見て感極まって泣くのと同じタイプのやつである。 「赤子でありながら……!! 幼き体であのように固い殻を粉砕し自らの生きる糧を獲得するとは何という力強き命の灯……! パーシーは今、心から感動しています!!」  パーシヴァルがおいおいと泣くのをスルーして、空腹この上ないアンキロサウルスはクルミの中身をむしゃむしゃと食べて喜んでいた。 (パーシー。恐竜の子どもは大丈夫そうだから、今のうちに家を建てちまおうぜ) 「むっ、そうだな。昨日のような大嵐が来たら一大事だ。木材を森に置いてきてしまったから、それを運ぶことから始めよう」  そしてパーシヴァルはフル〇ンの状態で木材運びを開始。何往復かした後に下半身のソレが邪魔なことに気付き、「そういえば裸だった」と思い出す。  森の木のヤシの葉をうまく畳んでフンドシスタイルにする。そうして木材運びを再開した。  往復をしている最中、何度かめまいに襲われた。  が、パーシヴァルは魔族との戦いで先陣を切った聖騎士であり体力には底がない。  なので「めまい」という現象も人生初だった。 「なんだか体のバランスがうまく取れない気がするが、何かのデバフかな? マーリン殿がゲーム感覚で取り入れたのかもしれない。なかなか面白いな!」  という謎の解釈で乗り切ってしまった。  木材をログハウス建設予定地に運び終えたときには日が落ちる寸前だった。  聖槍ロンゴミニアドは木の幹に立てかけてある。  普通の人間には槍がそこに立てかけてあるだけにしか見えないが、魔力を共有しているパーシヴァルにはロンがいびきをかいて爆睡しているのが分かった。 「槍なんだからもうちょっといびきを小さくしてほしい」というパーシヴァルのひそかな願い。  その木の根元には、集めた草をベッド代わりにしてアンキロサウルスの赤子が寝ていた。ご飯もいっぱい食べて熟睡といった様子だ。  傷の治りも早く、またひとまわり大きくなった気がする。パーシヴァルはその寝顔を見て穏やかな気持ちになった。 「傷が完全に治ったら、また森に戻してやるからな……」  槍と恐竜が仲良く寝ていることを確認したパーシヴァルは、木材のほうを見て「よし!」と気合いを入れた。 「さて、我ら“理想”の家を作るとするか」  高らかに宣言して一歩踏み出した瞬間、パーシヴァルは言葉にできない感覚に襲われた。 「む、……?……」  力が入らない。  そのまま前のめりに倒れた。
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