尻尾ぶんぶん!モンブラン

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尻尾ぶんぶん!モンブラン

 鋭いくちばし、ぎょろりとした目、大きく広げられた翼。  間違いない。  あれはこの時代に転移してくる前にパーシヴァルが「会えたらいいな」と呑気につぶやいていた翼竜、プテラノドンだった。  明らかにパーシヴァルとアンキロサウルスの赤子を狙って急降下している。  まずい。  今のパーシヴァルは起き上がることすら一苦労であり、戦うことは困難。  赤子は「ぎゅわ!ぎゅわ!」と尻尾を振って威嚇(いかく)しているが、こちらもあまり効果はなさそう。 「くっ……!」  どうしたものかと悩んでいる間にもプテラノドンが近づいてくる。  万事休すか、と思ったときに頭の中に響いてくる声があった。 (パーシー!!)  相棒、ロンゴミニアドである。 「起きたか!!」 (すまない、長く昼寝をしすぎた)  過眠を謝罪した槍が光を纏ってパーシーの横に瞬間移動してきた。 「だがロン、今の俺は起き上がることも叶わぬ。お前を手に戦うことは……」 (大丈夫だ、俺がお前の魔力を吸い取って翼竜を弾き飛ばす結界を張ってやる。いくら俺でも普通ならばそんな技を使うことは不可能だが、俺とお前は一心同体。絆パワーがあればやれないことはない!) 「ロン……!」  パーシヴァルは光る聖槍を手に取った。  その瞬間、パーシヴァルを中心に輝く波が発生した。光は次第に魔法陣の形に収束する。 (さすがに魔族の魔法を防ぐほどの力は出せないが、翼竜のくちばし攻撃であれば余裕で弾き返せるぞ)  急降下してきたプテラノドンがアンキロサウルスに狙いを定める。  赤子は近くまで接近してきたプテラノドンに驚いて「ぎゅ~~~っ」と混乱し始めた。 「こっちに来い!!」  パーシヴァルが赤子に向かって両手を広げる。短い足を必死に動かしてパーシヴァルの腕の中に収まったそのとき、ロンゴミニアドの結界が発動した。  ドーム状の青い光が現れる。  その光にプテラノドンの体が触れた瞬間、翼竜は悲鳴を上げて吹き飛ばされた。 「おお、やったぞ」 (まあこれくらいは余裕ですわ)  プテラノドンは何が起きたのか分からない様子で地面に倒れていた。  もう一度パーシヴァルに向かって飛んできたが、やはり結界に弾き返された。近づくのは無理だと悟ると翼竜は空へと帰っていく。 (結界は数時間は保つだろう。その間にパーシーは体を休めて……パーシー?)  最強の騎士もさすがに限界を迎えた。力尽きたように目をつぶっている。 「ぎゅ!? ぎゅ~~~~~!!!」  アンキロサウルスが喚き始めた。 (チビ、パーシーは死んでない。ただ寝ているだけだ)  槍が光りながら話しかけると「ぎゅ?」と呼応した。 (今は休ませてやろう。人間は俺たちよりもずっと弱くて未熟な生き物だから)  ◇  翌日。  太陽が高いところにのぼった頃。 「良く寝た!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」  パーシヴァルは絶好調だった。 (おお、パーシー!もう大丈夫なのか) 「ぎゅぎゅ~~っ!?」 「ああ。2人(?)とも心配をかけた。体も軽いし問題なさそうだ。赤子、君が必死に薬を作ってくれたおかげだ。ありがとうな」  パーシヴァルは槍とアンキロサウルスをぎゅっと抱きしめた。 「俺は果報者だな。君たちのように心から心配してくれる友がすぐそばにいるなんて」 (よせパーシー。俺とお前は一心同体。そんなのは当然のことだ) 「ぎゅ~~~~」  槍も赤子も嬉しそうだった。 「それにしても不思議なのだが、赤子は俺の言葉が分かるのか?」  アンキロサウルスはパーシヴァルが何かを話すたびに呼応する。それに、言葉の意味を理解しているのかのような行動も多い。 (おそらくだが、俺の影響だろう) 「ロンの?」 (ああ、俺の魔力を近くで浴びているから自然と言葉が理解できる能力が身についたんだと思う) 「そうなのか。意思疎通できるのはありがたいな」  赤子は「ぎゅっ」と言ってパーシヴァルの足にすり寄ってきた。頬ずりをしている。かわいい。 「そうだ、ロン。この赤子に名前をつけたいのだ」 (名前?) 「ああ。いずれは森に返すとしても、もう少し成長してからでないとアロサウルスやプテラノドンに命を狙われてしまうだろう。それまでは俺が庇護しようと思うのだ。一緒に生活するのであれば名前があったほうがいい」 (アンキロちゃん、でいいのでは) 「ロン、君は名前のセンスが壊滅的だな。聞いた俺がバカだった」  パーシヴァルは赤子をひょいと持ち上げると、主に下腹部を見た。 「これは男児か女児か」 (恐竜の()()を見分けるのって難しくないか……? おい、チビ。お前は男か女かどっちだ) 「ぎゅわ! ぎゅわわーーーーっ!!」  手足をジタバタさせている。どうも怒っているようだ。 (女の子だ、と言っている気がする) 「恐竜の言葉が分かるのか!?」  パーシヴァルは驚いた。 (いや……チャレンジしたことがないので何とも言えないが、意識を探ってみるとそういう反応である気は、する)  確かに下腹部には()()らしきものはなかった。  パーシヴァルは腕を組んで「むむむ」と頭をフル回転させた。  鎧竜。  女児。  草食恐竜。  トゲトゲ。  尻尾ブンブン。  ぎゅわわ。  アルマジロ。  最強騎士は目を見開いた。 「よし、君の名前はモンブランだ」 「ぎゅわ?」  赤子は首を捻っている。 「丸くなったときにトゲトゲしているからだ! それになんとなく響きもかわいらしい。決まりだ!! よろしくなモンブラン」  そう言って両手でアンキロサウルスの赤子―――モンブランを高く掲げた。 (ロンとモン、か。音も似ているしうまくやれそうな気がする)  英雄王の下に集った円卓の騎士。  喋る聖槍ロンゴミニアド。  そして、鎧竜と言われるアンキロサウルス。  なんとも面白い面子(メンツ)が揃った。  でかい魚を食べて食あたりを起こし、肉食恐竜に追いかけられ、草食恐竜の生き残りを発見し、風邪を引いて、プテラノドンにgood bye。  そしてまさか、発見した恐竜の生き残りを育てることになるとは。 「人生は何が起こるか分からないスリルに満ちているからこそ面白い。いや、この時代に連れてきてくれた陛下とマーリン殿に感謝をせねばな」  パーシヴァルはモンブランの頭を撫でながらその名前を呼ぶ。 「なあ、モンブラン?」  モンブランは自分の名前を聞いてぶんぶんと尻尾を振った。当たると痛いのでパーシヴァルはできるだけ遠ざけたが、喜んでいるような感情はなんとなく伝わってきた。  こうして、改めて1人と1本と1匹の期間限定の共同生活が始まったのである。
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