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「いいか、このことは絶対に秘密だからな」
でないと命はないと思え、とでも続きそうな鋭利な刃に似た眼光に竦み上がりかけるが、むしろ彼の方が秘密をばらされるのが怖いのだと思えば、別の痛みが生じた。
「言わないよ。だってそんなことしたら」
狩野君が泣いちゃうから、という言葉は飲み込んだ。流石にそれも失礼な気がして。
「そんなことしたら、何だよ?」
「地獄で閻魔大王に舌を切られる」
「嘘ついたわけでもないのに?」
「クラスメイトを裏切った罰とかで」
適当にそれらしく誤魔化せば、狩野はなぜか笑った。無駄にいい笑顔だった。
「お前の善意を信用する」
「ほんとに?」
意外すぎて数回瞬きすれば、ただし、と付け加えられた。
「お前の秘密も明かしてくれたらな」
「私の、秘密……」
何かあったかなと思いを巡らせる私に、狩野はさらに追加してきた。
「俺の秘密に釣り合うレベルの内容な」
「狩野くんの秘密に、ね……」
狩野の秘密に釣り合うレベルとなれば、授業中にこっそり先生の落書きを書いた、とか、そんなレベルでは駄目だ。他人にバレたら死にたくなるほどの恥ずかしいものではないと釣り合いが取れない。
私は考えに考えた。
本当のところをいえば、私にはちゃんとそれに釣り合う秘密がある。それも、きっと狩野以上に知られたら大ダメージを食らうレベルのものだ。
けれど、それは言うつもりはない。
だから、別の秘密を言う必要がある。
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