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「隠しててごめん。実は私も高山君が好きなんだ」
そう告げれば、狩野が目を見開く。
傷つけるかもしれないけれど、この秘密が最善だった。
ごめんね、狩野君。私には、これしか。
「マジかよ、お前もか」
脱力してずるずると床に座り込む狩野の肩を、ぽんと叩く。
「そうそう。だから私たちは今からライバルだよ。安心して。ライバルを売ったりしないから」
「いや、お前。ライバルは売るものじゃないか?」
「だってお互いに気持ちが相手にバレたら困るでしょ。だからおあいこ」
「つってもなあ。お前は女ってだけで俺より断然有利じゃん」
悔しそうな顔で、狩野が笑う。
こんなに笑顔を見せてくれたのは初めてだ。狩野は、こんなやつだったっけ。
いやきっと、私が知らないだけでこんなやつだった。
もっと。
私は生まれかけた感情を振り払い、大丈夫だよ、と狩野の肩をもう一度叩く。
「私はね、高山君に振られたことがあるの。だから、今も好きだなんてバレたくない」
「何で?」
狩野が、純粋に不思議そうな顔をする。
「だって、カッコ悪いじゃん。やっぱ振られたら、さっぱり忘れてしまわないとね」
振り切るように言って伸びをすれば、狩野が顔を顰めた。
「そうか?」
「え?」
狩野がすっと立ち上がると、今度は私の肩を叩いてきた。
「だって、好きでいるのは自由じゃん」
と、なぜか狩野は泣きそうに笑う。
私はその顔を見て、はっとした。それはそうだ。だって、狩野は。
「俺はそう思っていないと救われねえから、そう思うことにしてる。気持ちを伝えることがない分、せめて好きでい続けたい。ま、俺の場合はバレたことないから言えるのかもしれねえけど」
だから、お前は俺のライバルだ、と狩野は力強く言うと、痛いほどの強さで私の背中を叩き、立ち去ろうとする。
私は呼び止めたい気持ちを堪えて、代わりに廊下の窓から空を仰いだ。
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