また

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また

最後に、先生が学生名簿からあの子の名前を消した。生徒たちはそれを見ていた。 その場にいたみんなは知っている。 先生の手が震えているのを。 先生のすぐ側には小さな水溜まりができていた。 あの子はきっと、先生の手元を見ていた。自分の名前が消されるのを、最後まで見ていた。 見たよ。しっかり見た。 先生の横に目が二つ。あの子の目だ。 肩にはカバンを引っ掛けている。ちゃんと、あのキーホルダーがあの子と一緒にいる。 名前が消される瞬間、あの子と目が合った。なんで自分が消されるのか、わかっていない。そんな風に思えた。 あの子は、自分が死んだことに気がついていなかった。 一つ、思い出したことがある。 あの子の名前、雨と水の文字が入っていたな、って。 じゃあね。 声に出さないまま別れを告げた。 雨が降っていた。 雨は降っていた。 あの子はここにいた。 雨は上がった。 だから、あの子のことを頭から消した。 あの子はもういない子なんだから。 雨は確かに降っていた。 教室には今でも一人分の空の席があいたままだ。
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