side 琴葉

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side 琴葉

思ったより早く週末は、やってきてしまった。 「途中まで送ろうか?」 「ううん。大丈夫」 壊れたヘッドフォンじゃ、周りの雑音(ノイズ)は消えなくて。 結局、仕事帰りに100円ショップでイヤホンを買ってしまった。 「ヘッドフォン、修理出せるか持って行こうか?」 「いいよ。修理代の方が高いだろうから」 「でも、大切な物なんだろ?」 「もう、必要ない物だから。大丈夫。これがあるし」 「そっか。わかった。あっ、玄関にダンボール5枚置いてるよ」 「ありがとう。買って行こうと思ってたから助かる」 「縛ってるから、持ちやすいはず。でも、一人でいける?一緒に行こうか?」 「大丈夫だって。私、大人だよ。それぐらい一人で持てるって」 「だよな。じゃあ、ちゃんと気持ち伝えておいで」 「うん。行ってきます」 朝ご飯を食べてから家を出る。 春樹がダンボールをもらってきてくれたから助かる。 サイズ的には、80サイズぐらいかな? ダンボールを持って歩いて行く。 音と住んでいたマンションから近い。 よくこんな距離に住んでいながら春樹と会わなかったのが不思議。 昔、誰かに聞いた事がある。 「縁が切れた相手とは、どれだけ近くに居たって会えないって知ってた?」 「知らない」 「じゃあ、琴葉ちゃん。覚えてて。次にその人との縁が繋がった時は運命だって」 「運命?」 「そう。神様が、傍にいなさいって言ってるって事」 友達の誰かが言ってた。 誰だったかな? 不思議な考え方で、好きだった。 ピンポーーン 一週間前まで、鍵を開けて入っていたのに……。 今は、インターホンを鳴らしてる。 ガチャッ……。 音の顔を見たら、泣きそうになる。気丈に振る舞って、部屋に入る。 ゴミ袋をもらって、振り返るともう音はいなかった。 パタンと閉まるドアの音が聞こえる。 もう、他人だもんね。 一緒に居たくないぐらい嫌いなんだもんね。 鞄を開けて、イヤホンを取り出そうとしてやめる。 音がくれたヘッドフォンと違って、100円のイヤホンは、周囲の雑音(ノイズ)をすべて消してくれなかった。 さっさと片付けて帰ろう。 鞄から、ガムテープを取り出す。 ダンボールを組み立てては、服やぬいぐるみをしまっていく。 この服は、いらないかな? ゴミ袋を広げて、着ない服を入れていく。 「これ可愛いね」 「100円だった」 「へぇーー。いいじゃん」 「でしょ?」 可愛いいリボンのついたゴム。 音が可愛いって褒めてくれて嬉しかった。 小学6年生の私に、よかったねって言いたかった。 「このハンカチ。もう可愛すぎるかな?」 「琴葉が気に入ってるなら使いなよ。可愛いね、猫のキャラクター」 「でしょ?可愛いんだよ。小学生が好きなキャラクター」 20歳の時に大好きだったキャラクターのタオル。 もう、可愛いすぎて使えないよ。 バイバイ。 全部に音との想い出が詰まってる。 ゴミ袋に入れるのが悲しくて、ダンボールにしまっては、やっぱりいらないよねとゴミ袋に入れる。 何度も何度も、無駄な時間を繰り返して……。 ようやく、一箱ダンボールがいっぱいになった。 音との想い出がありすぎて時間かかりそう。 でも、あんまり時間かけたら迷惑だから。 とりあえず、ボロボロのとか古いのとかは迷わず捨てよう。 想い出に浸るのはやめて、私は手放していく。 終わったのは、14時過ぎだった。 引っ越し業者に連絡をすると、早くても15時を回ると言われてしまう。 音に終わった事を伝えて、外で待っていようと思ったら……。 音がやってきた。
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