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side 音
「二階は、貸しきりにしてもらったんだ。白山君のお店、オープンして3ヶ月だから。ようやく落ち着いたって話聞いてね」
「うん」
「どうしたの?いつもみたいに話していいんだよ?」
「……」
「珍しく人見知り?だったら、スマホのアプリに入力して」
【わかった】
「ちょっと待ってね。美佐子ーー、由奈ーー」
ちょうどやってきた同級生達と一緒に二階に上がってくと……。
二階には、もっとたくさんの同級生達がいて。
お昼に食べたお寿司が上がってくる。
徹……。
早く来てくれないか。
「才川、久しぶり」
【久しぶり】
「28会の時と違って、完全に話せなくなった?」
【今日は、調子がよくなくて。白山のお店、素敵だね】
「ありがとう。後、28の時はごめんな」
「白山……おっ、才川も来てくれたんだ」
白山が話しかけてきたこど、内心帰りたくて……。
そこに田村まで、現れた。
「あーー、白山君。すごいね」
白山がいるから、女子まで集まってくる。
「才川って、耳完全に聞こえなくなったんだろ?」
「らしいよ」
「やめろよ、聞こえるだろ」
「聞こえるわけないじゃん」
「スマホアプリ開いてたし」
「それって話してる時だけだろ?ってか、これ考えたのって誰?」
「美弥子ちゃんだって」
「うわーー。あいつ酷いな」
「才川は、顔がいいからだろ?耳聞こえなくたって十分おつりくるだろ」
「ヤバい、ヤバい、公開処刑じゃない?」
「まじで!黒瀬にフラれた腹いせか?」
「違うって。私は、耳が聞こえない男も愛せる優しい女の子なんだよってアピールしてるの」
「って、松波から黒瀬取り戻す作戦か?」
「美弥子ちゃんなら、有り得る」
「そうそう。昔から、そうだったよねぇーー。男子は、騙されるから駄目なんだよ」
「特に、才川はモテてたしな」
「本当!あの頃の才川を奪われたのはショックだったけど。今の才川なら、ショックじゃないかな」
「それって耳聞こえないから?」
「そうそう。耳って大事じゃん。同じ音楽聞けないとか映画やドラマも見れないし。まじで!終わってるから」
「あーー、わかる、わかる」
「いい加減に才川の前で話すのやめろよ。俺、仕事戻るわ。才川、ゆっくりしてけよ」
俺は、白山の言葉に頷いた。
鞄の中にあるスマホに映る羅列は、俺をただただ傷つけた。
もう見たくない。
俺は、スマホの電源を落とす。
「才川ってスマホ使ったら話せんの?」
鞄から真っ黒な画面のスマホを見せて、申し訳なさそうに笑った。
「スマホじゅうでんぎれか?これで、わかる?」
【いいよ、気にしないで。他のみんなと話して】
「わかった。ごめんな」
お笑い担当の田村は、申し訳なさそうに謝って、今までいたメンバーを引き連れて離れて行く。
よかった。
終わるまで、このままいよう。
美弥子は、友達と話して戻ってこない。
「これ、うちのオススメ。食べて」
白山がやってきて、パンケーキとコーヒーを置いてくれる。
俺は、さっきと同じようにスマホ画面を見せて謝る。
「いいって、いいって。おれも、しごとだからごめん。さいかわとはなしたいけど、しごとしなきゃだから」
白山は、俺にわかるように一字一句ゆっくりと口を動かしてくれる。
喫茶店を始めたからかも知れない。
いや、28会の時に徹が話してくれたからかも。
「じゃあ。ゆっくりして」
白山の言葉に頷いた。
このパンケーキは、白山の名字の白い山をイメージしたたっぷりのクリームが絞られている。
琴葉なら、喜んで食べるかもな。
一口食べると口に甘味が広がる。
その甘味は、嫌な甘さじゃなくて優しくて……。
泣きそうになる。
帰りたい。
消えたい。
ブラックコーヒー飲んだからだ。
胃が痛い。
助けて……徹。
早く来て……徹。
じゃなきゃ、俺。
「ちょっと、あんた!さっき、トイレで言ってた言葉撤回しなさいよ」
な、何で……?
俺の視界に映ったのは、徹じゃなくて琴葉だった。
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