side 音

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走って……。 走って…………。 走って………………。 家についた俺は、二階に上がる。 どれくらいの強さで、ドアを叩いただろう。 ビックリした姉が出てきた。 「なに?」 「俺に何か言う事あるだろ?」 スマホをポケットから取り出して、俺は画面を見つめる。 「部屋で話そう」 「どっちの?」 「音の部屋に決まってるでしょ」 姉は、俺を部屋に押し込んだ。 「徹君に今日の話したの怒ってんの?」 「そんなのどうでもいい」 「昨日、美弥子ちゃんが白山君と話してて。美弥子ちゃんが帰った後、白山君に聞いたのよ。音を呼ぶって……。28会で話せなかったからって。28会は嫌な思い出だったでしょ?白山君に聞いたら、徹君呼んでないって言うから。音が傷つけられたらって思ったら……」 「そんなのどうでもいいって言ってるだろ!」 「じゃあ、何?」 俺は、姉を見つめる。 「婚約破棄したって聞いたんだけど。本当?」 「あーー。白山君に聞いたの?そうなんだよね」 「笑い事じゃないだろ?俺のせいなんだろ?」 「はあ?何、馬鹿な事言ってんのよ。私達が別れたのに、音は関係ないから」 「嘘つくなよ。俺が、姉ちゃんの幸せを壊したんだろ?俺の耳が聞こえないせいで」 「何言ってんの!音の耳と私の婚約破棄は、何も関係ない。お互いに進むべき道が違っただけ。だから、音のせいじゃない」 「嘘つくなよ!俺が、ずっと姉ちゃんの幸せの邪魔してるんだろ?俺の耳が聞こえないから。遺伝するんじゃないかって思われたんだろ?だから、姉ちゃんの結婚駄目になったんだろ?俺……がいなかったら姉ちゃんは、その人と結婚出来たんだろ?」 姉に頬を叩かれる。 頬に走る痛みが、胸まで広がっていく。 「馬鹿な事言わないでよ。私達が、別れたのは音のせいじゃないから。それにい音の事で駄目になるぐらいなら、そんな人間こっちから願い下げよ」 「姉ちゃん」 「お母さんとお父さんには、自分から言うから音からは話さないでね」 姉は、部屋から出て行く。 ベッドに座って、部屋を見つめる。 俺は、幸せになっちゃいけないんだ。 俺が幸せになったら、不幸になる。 姉も……琴葉も……。 「おとーー」 「母さん……」 「さっき美弥子ちゃんが来てね。これ、忘れていったって。何かあった?」 「母さん。俺……。美弥子とは、付き合えないと思う」 「どういう事?美弥子ちゃんと何かあったの?」 母は、嬉しそうに笑っている。 俺は、いつもこの笑顔に応えようとしていた。 だけど……。 今回だけは……無理。 「ごめん」 「いいの、いいの。だけど、母さん。音には、近くに居て欲しい」 「仕事もほとんどリモートだから。来月には、近くに帰ってくるよ」 「一緒に住んだら?」 「ご飯ぐらいは、食べに来るから」 「わかった。晩御飯、音の好きな唐揚げだから食べていきなさい」 「わかった」 俺は、この先もずっと母さんが笑顔でいる方法を探すしかない。 琴葉に出会って、ようやく心配という名の監視から抜け出せたのに……。 これでいい。 俺には、これがいいんだ。
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