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「紗那。少しだけ、ママはパパとお話があるの。ここで待っていてくれる?」
紗那は少しおもしろくなさそうな表情を見せたが、渋々頷いてくれた。私は紗那の頭を撫で、彼と二人でリビングの隣にある部屋へ移動した。
ドアを閉め、私は大きく深呼吸をした。込み上げてくる熱いものは、必死に飲み込んだ。
「一体どうしたんだ?」
「あなたに言わなくてはいけないことがあるの」
「なに?」
本当に心当たりがない様子の彼の目を、私は真っ直ぐ見た。
「あなたは三か月前、交通事故で亡くなっているの」
「……笑えない冗談はやめてくれよ」
「冗談だったら、どれほどいいか……今、家に帰ってくる前、どこで何をしていたか、わかる?」
「そんなの決まってるだろう? 仕事に……」
そこまで言うと、彼は戸惑い視線を彷徨わせた。
「仕事で、誰とどんな話をしたか、思い出せる?」
「……そんな、バカな」
「最近、私や紗那以外と話をした人はいる?」
「それは――」
「私と紗那が亡くなった人を視ることができるのは知ってるよね?」
彼の動揺が大きいせいか、ゆらゆらとその姿が揺らめく。
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