1、なんとなくで婚約破棄されました

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1、なんとなくで婚約破棄されました

 伯爵令嬢マリアンヌには、婚約者がいる。ジエール・ミュレン伯爵令息だ。家同士が決めた婚約者である。 「マリアンヌ、君との婚約の話は無かったことにする」 「えっ? いかがなさったのですか、ジエール様。理由はなんでしょうか? 私、何か至らない点がございましたか……?」    婚約者のジエールが突然言い出したので、マリアンヌは驚いた。ふわふわのプラチナ・ブロンドを揺らして首をかしげるマリアンヌのアクアマリンの瞳には、「自分に問題があるなら改善します」という健気な気配が浮かんでいる。だが、ジエールはそんな婚約者に首を振った。   「理由は、なんとなくだ」 「な、なんとなく?」    私の耳がおかしくなった? これは夢?  現実を疑うマリアンヌだったが、ジエールの言葉は無慈悲に現実を突きつけた。 「僕たちはあまり気が合わないし、人生って一回きりではないか。僕は……運命の相手を探したい気分になったのだ」  冗談でしょう? そんな理由で婚約破棄なんて、受け入れられるわけないでしょう?  そう思ったマリアンヌだったが、なんと二人の婚約は破棄されてしまったのだった。  どうして。  呆然としているマリアンヌは、現実を受け入れる暇もなく父伯爵に新しい縁談を言い渡された。   「お前の新しい嫁ぎ先はローズブランシュ公爵家だ」  父伯爵が告げた家名に、マリアンヌは驚いた。 「お父様。そのお相手は王弟殿下なのでは」  新国王が即位して、弟に対して爵位を授けた。それにより、ローズブランシュ公爵という新しい王族公爵が生まれたのだ。    非常識な理由で婚約破棄されたばかりの、いわば『傷モノ』の伯爵令嬢になぜ?  びっくりしてしまうような縁談である。 (確か、王弟のナーシュ殿下は社交の場にあまり顔を出さない方。『学者殿下』という通称で呼ばれたりしている方だわ)  引き篭もって本ばかり読んでいるとか、猛獣をたくさん飼っているとか、道ならぬ恋をしているとか、あやしい噂がたくさんある。一言でいうと変人だ。年齢は、マリアンヌよりも少し年上。   (私、これからどうなってしまうのかしら)  マリアンヌは不安を抱いた。 
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