雪の思い出

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 酒を飲んでいる時に、思い出話を聞きたがる女が嫌いだ。  特に、あの雪が降った日のことを思い出させるような女は。 「聞かせてよ」  ホットワインのグラスを両手ではさんで女は言う。  雪の上に、ワインよりも赤い血を吐いた。  雪は街をすべて覆っていた。  そのせいで奇妙に明るい夜だった。  鮮血の記憶は今でも色褪せてはいない。 「面白い話は何もない」  俺は女の目を見ずにそう言った。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加