プロローグ

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プロローグ

 白雲曆104年、春の月7日。テールと呼ばれる世界の中心に位置する「ニュアージュ王国」に戦火が上がった。  城下町は、争いの中心から逃れようとする人々でごった返している。上質な服を身につけた貴族や商人。麻でできた簡素な服装の下人。みすぼらしい布1枚だけを身にまとった奴隷……決して相いれない身分の者達が、同じ方向へと走っていた。  その人々の流れに逆らって、少年は城へと駆けてゆく。  彼の髪は、ニュアージュでは珍しい茶色い髪で、猫耳のような癖毛がぴょこんと跳ねている。左手に握られた波の模様が描かれた赤い槍は、少年が走る度に、先端の丸い輪っかの装飾が揺れてチャリチャリと音を立てた。  少年は、自身に迫る国の兵士達を槍で倒しながら突き進み、ついに城の最上階にある玉座の間の扉を蹴り開けた。 「国王オレリアン!!」  少年は、玉座にゆったりと腰を下ろしながら護衛の兵士に庇われている、白髪の国王を睨みつけた。 「逆賊か……何をしに来た?」  そう尋ねながら口の端をあげる国王を、少年はマリンブルーの瞳で睨みつける。 「国を……この、腐った国をッ……ぶっ壊しに来たんだ!!」  少年はそう言い放ち、槍の先端を国王に向ける。 「覚悟しろ!!オレリアンッ!!」  少年は叫び、槍を構えて国王の元へ迫った。  ここまで来るのに、何人も殺した。ここまで来るのに、いくつも石を投げられた。  少年は、悪だ。  しかし、彼は迷わなかった。  少年の振るう槍が、少年の言葉が、少年の思いが……腐りきった世界の正義を潰していく。世界に、夜明けをもらたす光となる。  これは、世界が日の出を迎えるまでの、長い長い夜の物語。
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