5 「弟」の一歩先へ

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「会いたい……、みんなに、会いたい」  会えないと分かっていても、そう言わずにいられなかった。  奴隷なんて身分に悩まされることもなく、ただ穏やかに暮らせていたあの頃に、戻れたら……。  そう思い、涙を流していたカイだったが、頭に大きな手の感覚を感じて顔を上げた。  見上げた瞳に映ったのは、ハリスの優しい顔。  彼の大きな手が、カイの頭を撫でていた。  そうされて、カイは気づく。  奴隷になったから、自分はメルシエ家の一員になれたのだと。  メルシエ家のみんなも、大好きな家族なのだと……。 「カイ、大丈夫だ」  ハリスはカイを優しく見つめて、告げる。 「いつかまた、きっと会える」 「え……」 「いつか、身分による差別が無くなって、みんなが平等に生きていける……そんな日が来る。オレはそう信じてるんだ」  ハリスの言葉に、カイは目を丸くした。  ニュアージュ王国の現状を知る者ならば、そんなのは夢物語だと嗤っただろう。  でも、カイはそうしなかった。  ハリスの言葉を、信じたいと思ったのだ。  カイが小声で頷くと、ハリスはカラリと笑う。 「大体、カイみたいな出来た息子が奴隷だなんておかしいだろう。今日だって、カイが居たからラニアが守れたんだ」
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