4人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
6 夜明け前の逃避行
明け方、大きな音がメルシエ家に響き渡った。
カイは慌てて身体を起こし、部屋のドアを開けた。すると、廊下から黒い煙が一気に部屋に流れ込んできたのだ。
「っ……火事!?」
袖で口と鼻を押さえ、姿勢を低くしながら、隣のラニアの部屋のドアを開ける。
「ラニ……!」
しかし、部屋の中にラニアの姿はない。
「下か……?」
カイは壁を伝いながら階段を降り、一階に降りる。
階段のすぐ目の前にある玄関が激しく燃えているのに気づいた。どうやらここが火元らしい。いや、他にも燃えている場所はあるかもしれない。
何にせよ、外からの放火と見て間違いなさそうだ。
カイは火元から離れようと、リビングの両親の寝室へ向かった。
「お父さん、おかあさ──」
中に入ってすぐ、カイは言葉を失った。
部屋の床に広がるのは、どす黒い赤。
ベッドの上に横たわっているのは、何回も何回も斬りつけられて無残な姿になった両親だったもの。
そして、力なくそれを見つめる、ラニアの姿……。
「な、んで……」
ラニアの口から、か細い声が漏れる。
「パパ、ママ……なんで……?」
最初のコメントを投稿しよう!