6 夜明け前の逃避行

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6 夜明け前の逃避行

 明け方、大きな音がメルシエ家に響き渡った。  カイは慌てて身体を起こし、部屋のドアを開けた。すると、廊下から黒い煙が一気に部屋に流れ込んできたのだ。 「っ……火事!?」  袖で口と鼻を押さえ、姿勢を低くしながら、隣のラニアの部屋のドアを開ける。 「ラニ……!」  しかし、部屋の中にラニアの姿はない。 「下か……?」  カイは壁を伝いながら階段を降り、一階に降りる。  階段のすぐ目の前にある玄関が激しく燃えているのに気づいた。どうやらここが火元らしい。いや、他にも燃えている場所はあるかもしれない。  何にせよ、外からの放火と見て間違いなさそうだ。  カイは火元から離れようと、リビングの両親の寝室へ向かった。 「お父さん、おかあさ──」  中に入ってすぐ、カイは言葉を失った。  部屋の床に広がるのは、どす黒い赤。  ベッドの上に横たわっているのは、何回も何回も斬りつけられて無残な姿になった両親だったもの。  そして、力なくそれを見つめる、ラニアの姿……。 「な、んで……」  ラニアの口から、か細い声が漏れる。 「パパ、ママ……なんで……?」
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