6 夜明け前の逃避行

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 路地は狭く、人数の多い兵士達はもたつきながら2人を追うしかなかった。  2人と兵士達の距離が広がっていく。これなら逃げ切れる……カイはそう確信した。  しかし、ニュアージュの神は2人を見放すのだった。 「行き止まり……!」  路地の先は、小さな空き地。外に通じる道では、なかった。 「そんな……」  ガチャガチャと鎧が動く音が迫る。重たい足音が大きくなる。  振り返ると、兵士達が空き地に辿り着いていた。 「残念だったな」  先頭にいる兵士が、カイに憎悪の眼差しを向ける。 「この奴隷(ゴミ)が。お前がいなかったら、お前がに楯突かなかったら、お前の買い手は死ななかったんだ」  兵士の剣先が、カイに向けられる。 「全部、お前のせいだ」 「…………!」  その言葉が、カイの心を深く突き刺した。  それこそ、その兵士が持つ剣のように。  胸が焼けるように痛い。目の奥が熱い。頭の中をドロドロした後悔の感情が占める。  俺さえ居なければメルシエ家はこんなことにはならなかった。  お父さんもお母さんも死ななかった。  ラニアもこんな目には遭わなかった。 「俺の、せい、か…………」  兵士に、何も言い返せなかった。  カイの心が、母に捨てられた時のような絶望の色に染め上げられる。 「……ごめん、ラニ」  自分の隣にいる彼女に、か細い声で謝ることしかできなかった。  ラニアの手が、自分の手から離れる。それをただ、拒絶の証として受け取ることしかできなかった。
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