6 夜明け前の逃避行

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 また、失くした。  全て、失くした。  自分に、帰る家なんてなかった。家族だなんて……ラニを守りたいだなんて、思い上がってはいけなかったんだ。  カイがそう絶望していた、そんな中。 「ごめんだなんて言わないで」  ラニアは、ゆっくりとカイの前に出ていき、兵士達から彼を守るように両手を広げた。 「カイを買ったのは私。弟にしたのも私。奴隷を弟にしたらいけなかったのかもしれない。国王様は許してくれないのかもしれない。……でも」  ラニアは兵士達を睨みつけ、大きく口を開けた。 「後悔は、してない!!」  その気迫に、兵士達が怯む。 「奴隷商を見た時、あたし、この子のこと放っておけなかった!蹴られて、嗤われて、唾をかけられて……こんなの、人間が人間にする仕打ちじゃないでしょ!!国の決まりに背いてたとしても、あたしはそんなの認めない!!」  ラニアの声が、カイの心に響き渡る。  そうだ、ラニアは……こういう人だ。この国に珍しい……温かい、人だ。  そんな彼女だから……俺は、守れたらって、思ったんだ……。 「貴様、ニュアージュ王国に楯突いたな……!」  兵士達がラニアに向かって剣を構える。 「反乱分子は、切り捨てるのみだ!!」  先頭にいた兵士が、ラニアに迫りその剣を振り下ろす。  その一瞬が、カイには酷く長く感じられた。  大好きな人の死の瞬間を目前にし、カイの中で何かが弾けた。 「ラニに、手を出すなーーッ!!」  カイがそう叫んだ刹那。  パキィィッ!  兵士が……ラニア(大切な人)を襲おうとしていた全てが、凍りついたのだ。
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