雪灯路

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 日が沈み、思い出の地に再び鮮やかな光が灯る。感動的だった定山渓(じょうざんけい)神社の参道も、境内も──あの日と同じ景色のままだった。無数のスノーキャンドルが織りなす、幻想的かつ神秘的な光の輝き。滔々(とうとう)と降りしきる雪も重なって、またしても心を鷲掴みにされてしまった。  こんなつもりじゃなかったのに──あの日の思い出をなぞってしまう自分がいる。無くなった雪の足跡を探してしまう自分がいる。深冬の手の温もり、表情、口にした言葉のひとつひとつが、胸の奥から(あふ)れ出る。  今──とてつもなく深冬に会いたい。  しかしそれは、到底叶わぬ(はかな)い願い。手の平に落ち続ける雪の結晶が、付いてはすぐに溶けてしまうように。  元恋人が、永遠に心に残り続ける人なんていないんだ。この一面の雪だって、春には全て溶けて無くなる。季節でさえ前に進むのに、僕だけがここに立ち止まっていたら、かっこ悪いじゃないか──。 「僕もいい加減、前に進まないとな……」  境内に広がる白銀の世界は、これでもかと目に焼き付けた。僕の大切な雪の思い出。それを再確認できただけでも、来た意味があった。やっぱり僕は雪が好きだと実感した。  さぁ、帰ろう。今日は札幌に泊まって、また長い旅路で東京に戻って──そんなこと考えながら、後ろを振り返った次の瞬間。 「──えっ? 悠くん?」  懐かしい声と、十年経っても変わらない見慣れた表情が、目の前に現れた。  決して待ち合わせたわけじゃない。これは──奇跡だ。 「深冬──?」 「だよね?! やっぱり悠くんだよね?!」    *  呼び名もあの時のまま。久しぶりに、高揚感というものを思い出した瞬間だった。"会いたい"と願ったら、目の前にその人が現れたのだから。 「悠くん元気にしてた? あれからずっと東京だよね?」 「まぁまぁかな──今も向こうで働いてるよ。深冬は? ずっと札幌(こっち)いるの?」 「うん、ずっと同じ。悠くんみたいに外に出てみようかとも思ったけど──やっぱり私は、この雪と街が好きだからさ」 「そっか──。うん、それがいいと思う」  軽い世間話をしながら会話を試みる。こうやって顔を合わせて話すのも何年ぶりだっけ──。  深冬に「春から東京に行く」と伝えた卒業間際。彼女は驚いたような、悲しんだような、今まで見たことのない表情を浮かべた。僕も胸が痛かったことは、今でも覚えている。  それでも、彼女は強かった。「じゃあこれで遠距離恋愛デビューだね!」と言って、笑顔を向けてくれた。まぁ、恋人がそう言ってくれたなら、遠距離でも頑張れそうかなと思ったけど──現実はそんなに甘くなく。徐々に連絡の頻度が減っていき、自然消滅に近い形で僕らは終わってしまった。お互いにとって悲しい最後だった。 「あの時、ごめんな深冬。僕がもっとちゃんとしてれば──」 「いやそれは私もだよ! 突撃してでも、もっと東京にも行けばよかったなって思う」 「さすがに突撃はやめてほしいかな……びっくりするから」 「ほんと~? じゃあ、"札幌に戻ってきてー!"って泣きつけばよかった?」 「ふふっ……それはそれで困ってたかも。嬉しいけど」  高校の時から変わらない活発さに、思わず笑みが(こぼ)れてしまう。性格は真逆だけど──やっぱり、深冬といると楽しい。そんな気持ちで満たされた。  無数のスノーキャンドルの光と、この()てつくような寒さ。二人で並んで見ている景色と、感じている温度は──あの日と同じ。雪の思い出が、今この瞬間に蘇っている。 「──今そう言われたら、すぐにでも札幌(こっち)に帰るよ」 「ん? 悠くん何か言った?」 「あぁいや! 何でもない。あの時も今も、雪灯路すごく綺麗だな」 「うん──とっても綺麗」    胸が高鳴る。雪灯路を夢中で楽しむ深冬の表情に、僕は夢中になっている。  本当の気持ちを言うなら今しかない。彼女の左手に、そっと自分の右手を近づけた。 「深冬。もう一度、僕と──」
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