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後編
父は厳しい人だった、母は優しい人だった。
父の趣味はランニング、母の趣味は裁縫で、私はよく両親につき合った。
父と並走したり、母には着せ替え人形にされた。
私の箪笥は母の作品で溢れ、父はランニングのおかげか健康寿命が長かった。
吐かれる息は白く揺らぎ、そして宙に混ざり消えた。
色のない世界は私の汚れも、洗い落としてくれるようだ。
独りになってから、どれだけの時間が過ぎたのだろう。
耳を澄ませて聞こえるのは、私の呼吸と鼓動だけ。
世界から、誰もいなくなってしまった。人も、鳥も、虫も。
朝早い時間帯だから、冬で活動的な生物が少ないから。
理由は多々あるので、これ以上はもう考えない。
私は目を閉じて、音も穢れもない世界へ身を委ねた。
私の身体は沈み込んだ。
今も静かに雪は降り続け、私の腹部に厚く積もる。
このまま雪に埋もれれば、周囲からは見えなくなるだろう。
雪に姿を隠されて、世界から私はいなくなる。
私はいなくなりたいのか? この雪のように、やがて溶けて消えたいのか?
このまま眠ってしまったら、私はこの優しい純白の雪に全身を包まれる。
眠り続けたら、次に目覚めるのは雪解けの春だ。
私の身体は解凍されて、小鳥たちが私を啄ばむだろう。
肉は捲れ、骨が露わになる。
虫や動物たちが集まり、私を弔ってくれるはずだ。
私を愛した家族は召された、私を残し去っていった。
私も間もなく天国へ行く。
大好きな家族の元へ、輝く雪の思い出を抱いて。
私は思う、人間に恵まれた私は世界一……幸せな犬だ。
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