2 大切にしていたこと

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 松林の中は昼でも薄暗かった。それほど広くもなく、南北の幅は50mほどの帯状で、直ぐそこに車が走る道路が見えている。ただ、東西には500m以上の長さがあって、社から離れた場所には遊歩道のような道もできていた。遠くに犬を連れたお年寄りが散歩しているのが見える。昼間に来ると、林と言うよりも公園のようだった。  だから、余計に、菫の警戒心も弱くなっていたのだと思う。  猫にされたのはどのあたりだったかな。と、考えてから菫ははたとして、ため息を吐く。  当たり前のように受け入れているが、普通に考えたら、ありえない話だ。相手が猫に見えるとか、しっぽや耳が見えるとか、菫にそっくりな顔になっていたとかなら、百歩譲って化かされていた。と、納得してもいい。けれど、菫の姿が猫になっていたとなると、意味が違ってくる。しかも、鈴にも同じように見えていたとなると、さらに問題が深くなる。  いや、それが化けて化かす性質のモノだから。と、言われればそれまでなのだが、菫の知っている常識との違いにため息が出てしまうのは仕方ないと思う。  菫だっていろいろなものを見てきた。けれど、最近は特にひどい。見える頻度が増えたし、ちょっかいを出されることも多くなっている。今までは、道端や建物の影にひっそりと影のように佇んでいる、見た目にはごく普通の人が見えていただけなのに、最近は『幽霊』と、形容するより『妖怪』と言った方が近いようなものを頻繁に見るようになった気がする。  どうして、菫にだけ見えるのかなんて、何年考えても答えが出たりはしなかった。そんな問いに、答えがあるのかすら分からない。あったとしても、菫が知る常識では理解できない答えかもしれない。  なんにせよ。元々何も見ることがなかった菫がそれらを見るようになった時のような変化が、菫に起きているのかもしれない。  菫自身があずかり知らぬところで。だ。  怖いとは思わない。けれど、少しだけ、不安だった。
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