3 思春期みたいな

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「わー!!!!」  その続きを聞くのが怖くて、菫は腕を精一杯に伸ばして、黒羽の口を塞いだ。 「やめろ! 聞きたくない!!」  黒羽のことを嫌いだとか、気持ち悪いとか思うことはない。それは、黒羽が人外でも変わらない。そもそも、菫にとっては人外と人間の間に大差はない。  ただ、男の人を好きになったのも、付き合うことになったのも、菫にとっては青天の霹靂だった。鈴だったから好きになったし、好かれたのを素直に嬉しいと思えた。ほかの人のことを考えるような精神的余裕は今の菫にはないし、正直鈴との関係を誰にも邪魔されたくなかった。 「……阿呆が。自分で聞いておいて、その言い草はなんだ。それから……」  菫の両手を口から引き離して、代わりにその額にデコピンを一発くれて、黒羽が笑う。その笑顔はどこか、寂しげだった。 「別にお前のことなどなんも思っとらん。揶揄いがいがあるヤツだな。……いや。美味そうだとは思うな。北島のガキに飽きたら相手をしてやらんでもないぞ?」  けれど、そんな表情も一瞬で、黒羽はまた、すんすん。と、鼻を鳴らしてから、意地の悪い笑みを浮かべる。 「飽きねーし!」  その笑顔にほっとしている自分に、菫は気付かないふりをした。   「じゃ、飽きられたら相手をしてやろう」  さらに底意地が悪い笑い方に、今度は言い返す言葉がなくて、菫はぐぬぬ。と、口を噤む。鈴に飽きられない自信が菫にはなかったからだ。 「……阿呆が」  くしゃくしゃ。と、黒羽の大きな手が髪を撫でる。まるで子ども扱いだ。人外の年齢なんてわからないから、実際にすんごい年上かもしれないけれど、大の大人が子供のように扱われたことに菫は少しだけムッとした。 「髪ぐしゃぐしゃにすんな。てか、いちいちアホって言うな。アホっていうやつがアホなんだぞ」  頭の上の手を払いのけて、菫は言う。 「阿呆に阿呆と言って何が悪い」  払いのけられたのをものともせずに、また、黒羽の手が頭を撫でた。 「北島のガキがお前に飽きるわけがなかろうが。お前、あいつが死ぬまでは、絶対に自由になれんぞ? ん? いや……死んでもか?」  黒羽の笑みに一瞬。ぞ。っと、寒気がする。何か暗い淵を覗き込んでいるような感覚。少しだけ、目の前の人外が怖いと思う。 「……そ……そんなの。なんでお前にわかんだよ」  狐が言うことなんて、信じる必要はない。  狐狸とは人を化かす性質の生き物だ。  きっと、黒羽だって、気軽に口から出まかせを言っているだけだ。だから、菫の言葉の意味は問いではなく否定だった。 「わかる」  それなのに、きっぱりと、黒羽は言い切った。それこそ虚言かもしれない。とは、思えなかった。 「つか。反対に聞きたいが……お前は、あの顔見てわからんのか? あれを見て飽きると思われとるんなら、いっそ哀れだぞ?」  ため息交じりに続ける黒羽。そんなことを言われても菫にはわからない。わからなくて、菫は足もとに視線を落とした。  茶色の松葉が一面に散り敷いているのが見える。 「俺はまあ、嘘つきだが? 真名を教えたヤツにまで嘘はつかん。揶揄いはするがな」  その頭にまた、手を添えて、聞こえてきた黒羽の声は、少しだけ困ったようなニュアンスを感じさせた。 「自信をもっていろ。お前は……」
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