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2 大切にしていたこと
自宅の敷地の入り口で腕組みをした兄が仁王立ちで出迎えてくれた。車庫に車を入れるのと同時に、横から無理矢理ドアを開けられて最早何を言っているのか分からないくらいの早口で説教が始まる。聞き取れたものは、どれをとっても、朝帰りした女子高生に対する父親のそれだ。
菫も椿の説教に対するスルースキルはそれなりに熟練していたつもりだったが、あまりにうるさいので、さっさと風呂に逃げ込んだ。のだが、風呂の外から延々と声が聞こえてくる。
いつまでも入っていることはできないので、覚悟を決めて風呂から出ると、やはりというべきか、そこに仁王立ちの椿がいたときには、ため息が漏れた。今更男同士の兄弟で裸を見られたからどうだとは言わない。けれど、鈴とのあれこれの痕が残っていたのが運の尽きだった。
「す……みれ。おま……っ」
椿が絶句する。
成人男性が、恋人とお泊りして、やることなんて決まってるんだから、分かってはいただろうに、がっくり。と、椿は膝を落とした。
「……なんて……ことだ」
_| ̄|○。。。
まんま、↑のポーズで項垂れている。
「俺の。菫が……」
そのまま、さめざめと泣き出しそうな勢いだ。『俺の』の部分に何か執着じみたものを感じて怖い。普段は少し口うるさいくらいで普通の兄貴だと思っていたのだけれど、鈴と出会ってからの椿は少し(?)常軌を逸している気がする。
「あのさ。にーちゃん。いつから俺はにーちゃんのになったわけ?」
反論する気なんて初めはなかった。とりあえず、言いたいことを全部言わせて(菫の方は完全にスルーしているが)落ち着いてから、事情を説明したうえで、鈴とのことは多少強引にでも認めさせるか、納得してもらえなくても報告だけはするつもりだった。だから、ぽろり。と、言ってしまった反論にすぐにしまった。と、思うけれど後の祭りだ。
「……菫。お前」
一瞬、顔をあげて椿は驚きの表情を見せた。
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