雪を喰らう

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 雪が舞う冬の海に、ひっそりと小舟を出した。どのくらい漕いだだろう。周りは水平線しか見えない。俺は海に向かって叫んだ。 「ユキー!」  何度も、何度も、叫んだ。  1刻ほど経った頃、小舟のすぐ横の海面が揺れ、艶やかな黒髪の美女が現れた。 「ユキ! 俺だ、シンだ! あぁ、会いたかった」  ユキは俺に鋭い視線を向ける。 「どうしてここにいるのです? 子供達はどうしたのです?」 「子供達はすっかり大人になってしまったよ。孫が6人もいるんだ」 「では、どうしてここにいるのです?」  ユキは再び尋ねる。 「ユキ、俺はすっかり老いぼれてしまって、先も長くない。せめて最期はお前の側にいきたくて」 「なっ……そんなことっ!!」  ユキは眦を吊り上げた。 「ユキ、お願いだ。歌っておくれ」  俺は微笑みを浮かべ、ユキに手をのばした。ユキの瞳が揺れる。 「……歌ったら、あんたは……」  波音に搔き消されて、声は最後まで聞こえない。 「ユキと一緒なら本望だ。それにもう、独りで泣くのは耐えられない。だから、歌っておくれ」  ユキの瞳が真っ直ぐに俺の顔を見据えた。 「……わかった」  ユキが静かに歌い始める。俺はゆっくりと瞳を閉じた。  雪だけが俺とユキの行く末を見守っていた。
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