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VIII
僕ーーエルマーは暗く視界の悪い大雪の中、イゾルデの前に立っていた。
「イゾルデーー」
「やっとお会いできましたね。最期に貴方に逢いたいと思っていました。この雪の中であればお会いできると思っていたのです」
この時、イゾルデは確かに僕を思い出の精霊だと認識していた。
(思い出が食い違うわけだ)
前と同じように体温はギリギリ。きっと目は霞み、耳は遠く、正気を保っているのがやっとだろう。
「嬉しかったんです。人間界の宝よりも私の命の方が価値があると言ってくれた。その言葉で、私はこの動乱の時代を生き抜くことが出来ました」
(僕、そんなこと言ってない)
あの頃の僕は人間界の秘宝の価値を知らない。だから彼女の命と宝の価値を比べることなど出来たはずがないのだ。
(彼女の中で思い出は美化されている)
でも、それは僕だって同じだ。
思い出の中ほど彼女は綺麗ではないし、美女でもない。
お互いにその後の人生を生き抜く糧にするために、記憶を脚色していたのだ。
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