VIII

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「雪の国に来たのは、なぜ?」 「貴方に逢いたかったから。だから、帝国を作り、錬金術師を揃え、巨万の富を注ぎ込んで雪の国を見つけました。貴方に逢えたことがこんなにも嬉しい。ペンダントも和平も要らなかったんです。ーー戦争などさせません。貴方の邪魔になるならこの身はここで」  イゾルデは僕のために死ぬつもりだ。  正確には僕との思い出のために地位も民も捨てるつもりなのだ。 (なんて愚かな女王なんだ)  民のことなど何も考えていない、自分勝手な為政者。  僕の中の思い出は誰も踏んだことのない初雪のような白さだったのに、人間が泥の付いた長靴で踏み荒らした融雪のように汚れていく。  触れないで、壊さないでいてくれれば、僕は永遠に綺麗なままの思い出を愛でられていたのに。  過去のヴェールを剥いで現れた彼女はあまりにも生々しく僕に相応しくない。
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