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[エピローグ]
記憶は改竄される。
衝撃的な出来事はより衝撃的な出来事で塗りつぶすことが出来るのだ。
「イゾルデ、ほら見て。雪だよ」
「数年ぶりですね。エルマー様」
あの雪の日にあったことはどんな精霊もロクに覚えてはいない。
雪の国にあった雪の女王が作った全ての雪が融かされ、精霊達は生きるか死ぬかの瀬戸際に追い込まれたからだ。そして当時の雪の王が新雪を降らせ、雪の精霊達を救った。しかし、力を使い果たしてしまったので当時の側近に王の座を譲ったと語られている。
一方で人間界には数ヶ月にわたって大雪が降り、誰もが日々の生活に追われて使節団のことなど忘れてしまった。
あのペンダントは壊した者の力を一度に増大させる力を持っていたらしい。しかし、人間界の秘宝を精霊が使った代償に僕は人の子と同じ身体へと落とされた。
今や僕も、そして彼女も何者でもなく、緩やかに人間界で余生を過ごしている。それは虚飾のない等身大の存在を見つめ合うことで、僕達は時に憧れ、時に幻滅しながらお互いの存在を今に刻みつけていった。
あの雪の日を思い出してかイゾルデが僕に問うた。
「エルマー様はあの日の取引について後悔されていませんか?」
「全然。僕は雪の精霊としての最後の力で君の残りの人生を奪い、君に僕の残りの人生を与えたのだから」
おわり
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