釆羽の過去

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釆羽の過去

「お母さん、今日の夜ご飯なーに?」 「ネギ大盛りしたもやし炒めw」 「えー!ねぎいらない、!」 「文句言うなよ。ネギが多くても母さんの料理は美味いからな。」 私たちは幸せな家族だ。ちなみにもやし炒めのネギは入ってたけど、少なめだった。年に二回は必ず三人で旅行に行くし、誰かになんと言われようと私は幸せだった。そんな幸せな日常に永遠なんてなかった。 幸せが壊れたその日、いつものように私たちは旅行を楽しんでいた。旅行に行く日は決まっている。私の誕生日とお母さんの誕生日だ。今日はお母さんの誕生日。ものすごく楽しみだ。ルンルンルンなんて効果音が出そうなほど旅行の日は大切だった。小学生からお小遣いが入るのでお母さんの誕プレまで買った。準備は満タン。そんな時だ。旅行中道路を歩いていたら私の不注意で赤信号に切り替わってるのに気づかず、信号を渡ったのである。私は死を前にした気がした。もう少しで私とトラックがぶつかる。そんな時だった。お父さんが歩道から飛び出し私を庇ってくれた。私は軽傷で済んだがお父さんは瀕死(ひんし)レベルの重傷を負っていた。すぐに救急車に運ばれたがお父さんは救急車の中で亡くなってしまった。道路には小さな髪飾りとぐちゃぐちゃになった誕生日カードを残して。 その日から母は狂った。お父さんが死んでからは数日は一睡もできなくなっっていた。もちろん私も。だけどお母さんの方が酷かった。あんなに愛し合っていたのだからしょうがないのかもしれない。ずっと父の名前を呟くだけの壊れた人になってしまった。私のせいなんだ。これは。そう悟るには小さいながらも時間は掛からなかった。小学生の私は怖くて怖くてどうしようもなかった。 このまま母も死んでしまうじゃないかって。辛くなった。我慢できずに私は口を開いた。 『お、母さん。・・・』 久しぶりに開いた口はパサパサで喉も渇いていた。 『あんたが死ねばよかった。お前がいなければ幸樹は死ななかった。お前さえ、お前さえ、』 そう私は首を絞められた後、ビンタされ倒れ込んだ。でもいい。お母さんの気が収まるならそれでいいんだと思った。これからは私、お母さんのために生きよう。行く学校も就職も全てお母さんの思い描いた場所でいい。私はお母さんの命より大切なものを奪ってしまったのだから。
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