奔走

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 商業施設のビルに清掃員の格好をして潜り込み、速やかに業務用エレベーターで最上階手前まで上がると、後は非常階段を上って屋上まで到達した。そして、事前に持ち込んであったスナイパーライフルを収めたバッグを開け、中から丁寧にパーツをと取り出すと、それを速やかに組み立てた。そして、凹凸が出来ないように敷物を広げると、 「ふーっ。」 ジンは深く息を吐いてライフルを静かに設置し、弾を装填した。そして、腹ばいになったまま、ジンはスコープのキャップを開けた。其処までの所要時間はきっちり七分。スコープを覗きながら、千二百メートル先のビルの一室に照準を合わせながら、彼は其処が支持された通りの会議室であることを確認した。腕時計の時刻を見ながら、 「あと三分・・。」 そう呟くと、彼はターゲットが入室するのを待ちながら、トリガーにそっと指を掛けた。と、その時、 「バサッ!。」 と、寝そべっているジンの足元に、何かが落ちてきたような物音がした。彼はトリガーから指を外して、出来るだけ姿勢を崩さないように足元を見た。すると、 「クルックー・・。」 と、鳩が一羽、鳴きながら蹲っていた。 「何だよ。驚かすなよ。」 ジンはそのまま鳩を捨て置いてミッションに集中しようとしたが、 「カー、カー。」 と、上空を烏らしき黒い物体がしきりに鳴きながら旋回しているのが目に入った。どうやら、鳩を狙って次の攻撃の機会を伺っているようだった。 「ちっ。」 彼は蹲っている鳩をそっと拾い上げると脇の所に隠して、烏から見えないようにした。すると、烏は人間が獲物の鳩を匿っていると悟ったのか、 「カーッ!。」 と一鳴きして、何処かへ飛んでいった。傷着いている鳩を尻目に、ジンは最小限の動きで元の姿勢に戻ると、息を整えてすコーブを覗き込み、再び、そっとトリガーに指を掛けた。 「大人しくしてろよ・・。」 ジンは心の中で呟きながら、視線の先に集中した。程なくして、会議室の中に数人の人物が入室してきた。そして、入ってきた順に着席すると、一番最後に額の広い白髪の男性が入ってきた。一同は彼に一礼した。そして、彼が着席するのを見届けると、みんなも一斉に着席した。 「ジャスト三分。」 ジンはそう呟くと、ゆっくりと、指の振動が伝わらないようにしながらトリガーを引いた。 「ダンッ!。」 サプレッサーを装着していたとはいえ、誰もいない屋上には大きな銃声が響いた。しかし、ジンは全く意に介さず、スコープの先だけを見つめた。すると、会議室のガラスに小さな蜘蛛の巣状に円形のヒビが入ったかと思うと、次の瞬間、室内にいた男性が側頭部から血を流しながら床に倒れ込んだのが見えた。会議室では、数秒間、呆気に取られた連中が何が起きたのかも解らず、ただただ座っていた。しかし、傍らに座っていた人物が自信のワイシャツに血飛沫が飛んでいるのを見つけると、それに気付いた数名が慌てて倒れ込んだターゲットに駆け寄った。 「ミッション、コンプリート。」 ジンはそう呟くと、直ぐさま脇にいた鳩を見た。 「クルックー。」 鳩は相づちを打つかのように、小さく一鳴きした。ジンはサッと座り直すと、大人しくしていた鳩の弾をそっと撫でて、すぐさまライフルを分解し始めた。そして、数十秒でライフルと敷物をバッグの中に仕舞い終えると、直ぐさま立ち去ろうとした。しかし、 「オマエ、怪我してるのか?。」 飛べずに蹲っていた鳩を見て、ジンは鳩の傍らにしゃがんだ。見ると、烏にやられたらしく、鳩の右羽根から血が滲んでいた。ジンは少し考えたが、 「仕方無いな。来るか?。」 とういうと、鳩を小脇に抱えて、屋上を後にした。ジンは鳩を作業着の胸元に入れると、バッグを肩に担ぎながら足早に非常階段を駆け下りた。そして、業務用エレベーターに乗り込むと、胸元を軽く撫でながら一階まで下りた。一階に着くと、ジンは通用口の裏に止めてあった原付バイクに跨がると、ハンドルにかけてあったヘルメットを被って、そのままビルを後にした。途中、複数台のパトカーがサイレンをけたたましく鳴らしながら走り去っていった。しかし、ジンは何食わぬ顔でその横を走り抜けると、とあるマンションの前でバイクを止めた。そして、バッグを担いだまま、一階にある動物病院に入っていった。表には休診日と書かれた札が下げられていた。 「先生、いるかい?。」 「おお、ジンか?。どうした?。」 「コイツを診てもらいたんだ・・。」 そういうと、ジンは胸元から徐に傷着いた鳩をそっと取り出した。 「鳩じゃ無いか。烏にでもやられたのか?。」 「そうらしい。治るか?。」 「うーん、傷は大したこと無さそうだ。他に問題無ければ、傷の手当てだけで済みそうだ。」 「じゃあ頼むよ。あと、これも・・。」 そういうと、ジンはバッグをカウンターの上に置いて、胸ポケットから折り曲げられた万冊の束を獣医に手渡した。 「ミッション終了か?。」 「ああ。そいつ以外、予定通りにな。」 そういうと、ジンは顎で鳩の方を指した。  ジンはカウンターの奥にあるロッカーから預けてあったブルーのスーツを取り出すと、作業着からそれに着替え、靴も革靴に履き替えて動物病院を後にした。そして、再びバイクに跨がってヘルメットを被ると、そのまま街中を走り去った。暫くいくと、ジンのバイクは閑静な住宅街に差し掛かった。そして、左手にあるオープンテラスのあるカフェに着くと、彼はバイクを止めて、店員に何やら告げて、そのまま空いている席に腰掛けた。そして、誰かが置いていったであろう英字新聞を手にすると、それを広げて読み始めた。 「お待たせしました。」 其処へ店員がカプチーノを運んできた。 「ありがとう。」 ジンは新聞に目を通しながら、カプチーノを口に含んだ。そして、 「ふーっ。」 と、ようやく一息着けたという様子で、向こう側に見える空を眺めた。その一連の行動が、彼の仕事終わりのルーティーンだった。人知れずミッションを終え、そのまま街に溶け込む。そして、これまでと何ら変わらない様子で過ごす。そのはずだった。しかし、 「ん?。」 勘のいいジンは、普段テラスに来るような客とは明らかに異なる人物が、視界の端に入った。それは、額の広い白髪の男性だった。彼はジンの右側のテーブルに腰掛けて、同じように向こうの空を眺めていた。 「ま、まさか・・、」 ジンがそう思った次の瞬間、男性は顔をジンの方に向けた。すると、右側のこめかみからは血が一筋流れていて、こめかみには明らかに一センチ程の穴が開いていた。 「ブッ!。」 ジンは思わずカプチーノを吹き出した。そして、急に立ち上がると、 「な、何でアンタが此処にいる?。」 と、上擦ったような声で男性にたずねた。すると、男性は辺りを見回しながら、たずねられたのが自分らしいと察すると、自分で自分を指差して、 「ん?、ワタシにいってるのか?。」 と、穴の開いたこめかみのまま、ジンにたずね返した。ジンは少し震えながら首を縦に二回振って頷いた。すると、男性はそのままジンのテーブルにまで歩み寄り、 「では、ビンゴだな!。」 そういいながら、開いている隣の席にに腰を下ろした。そして、 「どうやら、ワタシを葬ったのは、キミのようだな。」 男性はそういうと、顔を近付けて、こめかみから血を流したままにっこりと微笑んだ。 「ショーだ。よろしく。」 男性は右手を差し伸べて、ジンに握手を求めた。しかし、眼前に起きていることを全く理解出来ていないジンは、硬直して動けなかった。すると、男性はジンの右手を取ると、そのまま握手をした。何をどうしていいのか解らず、ジンはもう一度、椅子に腰掛けた。と、その時、ジンは周囲の客が自分のことを奇異な目で見ているのに気付いた。確かに、死んだはずの人物がにこやかに握手を交わすのは異様そのものだが、視線の先は男性にでは無く、ジンだった。すると、男性は周囲を指さしながら、 「はは。どうやら、ワタシのことは見えないらしいぞ。キミ以外にはな。」 と、状況を説明した。しかし、そんなことをされても、この状況がジンにとって受け入れ難いことなのは変わらなかった。落ち着くどころでは無かったが、ジンには確かに男性の姿も声も、ちゃんと感じることは出来た。不可解極まる状況にあって、ジンは最早、自身がどうすることだけは確かなようだと、そんな気がした。しかし男性は、 「このままワタシと会話を続けていたら、キミは頭が変なヤツだと思われてしまう。あ、そうだ。今まで通り、英字新聞を読みながら、カプチーノを楽しんでいるように振る舞えばいい。そして、小声で話せば、口元は隠れる。」 と、ジンに自身と怪しまれずに話す方法を教えてくれた。それでも、ジンはまだ悪い夢から全く覚めていないような気分だった。仕方無く、男性が徐に語り始めた。 「ワタシはいわば、成功者だ。そして同時に、敵も多い。故に、いつ何時、こんな目に遭っても仕方無かった。損な覚悟も無くば、巨万の富など築けようはずも無い。で、ついに今日、その日がやって来たというわけだ。」 男性はそういうと、やはりにこやかにジンを見た。しかし、ジンには、自らを殺めた人物に対して、彼が何故このように穏やかな表情でいられるのか、全く理解出来なかった。いや、それ以前に、このようなことが起きるなど、想像だに出来なかった。 「・・・で、あ、アナタは、何故此処に?。」 やっとの事で、ジンは思いの丈を彼にぶつけた。 「・・さてな。ワシにも解らん。ワシはキミのような人物とは違って、信心はあったから、死して後は天国か、あるいは地獄にいくのだろうと、そう思っておった。しかし現実は違った。どういう訳か、ワシを葬った、キミの元に来る羽目になった。」 「それは、ワタシを恨んでとか、復讐心からですか?。」 ジンは冷静を装いながら、男性にたずねた。 「復讐?。ワシがそんな風に見えるか?。」 「・・・いえ。」 「じゃろ?。ワシは死するときに、一切の未練をこの世に残さぬよう、そう準備はしておいた。それに、こんな体で、一体どうやって、キミに復讐ができるかね?。」  男性はそういうと、自身のこめかみの穴を指差しながら、意地悪く微笑んだ。ジンは複雑な胸中を、どう表情に表していいか苦慮するより他無かった。 「ところで・・、」 ショーは続けた。 「ワシもこのまま、この世に縛られっぱなしでは拉致が開かん。ま、出来れば成仏したいものだが、どうやらそれを妨げる何かが、まだワシの中にか、あるいはキミの中に残っておるらしい。」 そういうと、ショーは神妙な面持ちでジンの読んでいる新聞に顔を突っ込んだ。すると、紙を通り抜けて、ショーの頭がスッとジンの真ん前に現れた。 「・・・!。」 ジンは周りに気取られないように、必死にこの非現実的な状況を堪えようと必死だった。すると、 「キミはどうして、ワシをこの世から消したのかね?。」 ショーは当然の疑問をジンに投げかけた。 「アナタを消した理由・・ですか?。」 「そうじゃ。もしワシに、唯一心残りがあるとすれば、恐らくそれじゃろう。病死や天寿を全うしたのならまだしも、何処の誰とも解らぬキミに、訳も分からず殺められたとあっては、冥土の土産にもなりゃせんでのう・・。」 ショーはそういうと、新聞紙から頭を出したままジンを見つめた。 「いや、ワタシはいちスナイパーですし、指示通りにターゲットを撃つために必要な情報以外、何も得ていません。本当です。余計なことを知らせないのが、この業界の掟ですし・・。」 ジンは額に汗をかきながら、真っ正直に答えた。どういいつくろったところで、新聞紙のように見透かされるだろうと、そう思ったからだった。 「ま、そりゃそうじゃな。ワシも出兵の経験はあるし、奇しくもキミと同じく、狙撃手じゃった。それにしても、あの距離から、よくも見事にワシのこめかみを撃ち抜いてくれたのう。ホッホッホッ。」 ショーは愉快そうに笑うと、ズボッと新聞紙から顔を引っ込めて元の椅子に座った。 「ま、仕事柄、ターゲットの素性など知らぬ方が、余計な感情移入もせんし、仕事への影響も少ない。だからこそ、キミは名手だった。じゃろ?。」 「・・・ええ。多分。」 「これでキミはワシに私怨が無いと証明された。しかし、見ての通り、ワシの体、いや、魂はこの世の呪縛からは解放されてはおらぬ。困ったのう・・。」 ショーはそういうと、テーブルに両肘を突いて考え込んだ。ジンもこの状況から早く解放されたいという気持ちはあったが、自分が殺めた男性が目の前で困っているのを見て、ほんの僅かだが気の毒に思い始めた。そして、 「アナタを仕留めておいていうのも何なんですが、ボクに何か出来ることがあれば・・、」 と、ジンがそういいかけたとき、 「うーん、キミの属する組織の性質上、依頼主の情報を得るのは難しいじゃろう。となると、ワシが気に留めているのは其処では無く、もっと別の興味ということか・・。お、そうじゃ!。」 ショーはあれこれと推測する内に、自身の持つ好奇心が、この世の未練となって自身の魂をつなぎ止めているのかも知れないと、そう感じた。 「先にもいった通り、ワシには敵が多い。誰のどんな恨みを買ったなど、聞いていてもキリが無い。それよりも、キミはどうして、この職業を選んだんじゃ?。ワシにはその方が余程興味が湧いてきたわい!。」 そういうと、ショーは生き生きとした目でジンを見つめた。死んでいるのに。 「い、いや、それは・・、」 通常なら、自身の事は例え誰かに捕まって拷問をされても、口を割ってはならないという掟の下、ジンは生きてきた。それだけに、いくらショーの頼みでも、こればかりは口にすることは出来ないという、自身の体に染みついた堀シーが、口から言葉を発するのを拒ませた。すると、 「ま、通常なら、話さんわな。見るからに、キミはプロ中のプロのようだし。しかし、考えてみたまえ。これから昇天するワシに口を開いた所で、それが何になる?。さらにいえば、こんな状態のワシと話していることも、そして、自身の素性を話したことも、一体誰が信じてくれる?。違うか?。」 人知を超えたショーの発言は、至極、最もだった。そして何より、彼が天に召されるようにするためのカギが、自分自身にあるのなら、協力しない訳にはいかないと、ジンもそう感じた。 「解りました。では、お話ししましょう。ですが、此処で話すことは一切他言無用で・・、」 「他言って、誰に?。」 「そ、そうですね。」 警戒心から、つい出てしまった言葉だったが、ショーに突っ込まれて、ジンはすぐさま状況を把握した。 「ワタシは、此処から数百キロ北にある、小さな山村で生まれ、其処で育ちました。」 「え?、そんなとこから話すの?。」 ショーは巨大な企業を率いてた重鎮らしく、非効率的な話を聞かない癖があった。 「いや、でも、其処から話さないと、ライフルの話が・・、」 「あ、そう。そいつはすまない。なら、続けて。」  ショーは話を妨げたこと申し訳なさそうに伝えた。 「あ、はい。で、父は狩人だったので、物心ついたときからワタシもライフルを持たされて、狩りを手伝うようになっていました。で、気付けば、禁漁期が明けると、ワタシは誰よりも獲物を仕留めるようになっていました。そして、そのことが次第に隣町にも知れ渡り、やがては都市部の方でも取り上げられるようになりました。で、恐らくは、その情報を、組織の者が聞きつけたんでしょう。ワタシに奨学金を出すからといって、街にやってくるようにと、そういう申し出がありました。」 ジンは淡々と、しかし、誠意を持って忠実に事実関係を思い出しながらショーに話した。ショーは腕組みをしながら、黙って聞いていた。 「で、折角の申し出だったし、進学も望んでいたので、ワタシはその申し出に乗りました。そして、午前は大学に通い、午後からは射撃の腕を磨くべく、ありとあらゆる訓練を受けました。そしてある日、ワタシは目隠しをされたまま、車に乗せられて、何処かへ連れていかれました。」 「ほう・・。」 ジンの言葉に、ショーは身を乗り出した。 「で、とある建物の屋上らしき所に連れて逝かれ、ライフルを手渡されると、目隠しを外したと同時に、動く者を撃てと、そう指示がありました。」 「ほう!。で?。」 「ワタシは目隠しをされたまま、ライフルを構えました。そして、後ろから目隠しを外された途端、動くターゲットが見えたので、それを撃ちました。」 「ほうほう。で?。」 「あ、はい。撃ったのはどうやら人らしく、倉庫外の傍らに倒れ込んでました。」 「おー!。それが初仕事だったという訳か?。」 「ええ。」 「で、始めて人を殺めた気分は、どうじゃった?。」 「はい。それが・・、」 ショーは幾分、興奮気味にたずねたが、逆にジンの表情は優れなかった。 「傍らにいた組織の人間が、こんな距離から誰かを仕留めたなどと、誰が信じる?。全く辿られることなどあり得ないと、そんな風にいわれました。で、ワタシも動物は撃ち慣れていましたし、特段、感慨のようなものはありませんでした。」 「うっそーん!。」 ショーはジンの言葉を聞いて、酷く落胆した。自分を仕留めるほどの男なら、もっと過酷な生涯を送っていてもおかしくは無いだろうと、そういう期待感は見事に打ち砕かれた。ガッカリして背もたれにもたれたショーだったが、 「お?。」 と、自身の体の色が半分ほど透けてきたのに気付いた。 「ほほー!。期待度には満たない話じゃったが、どうやら合点はいったようじゃ。ほれ、半分成就しとるわい!。」 ショーはそういうと、喜んで透けた体をジンに見せた。 「あ、ホントだ。」 「じゃが、あと半分ほど、何かが足らん・・。」 そういうと、ショーは腕組みをしながら考え込んだ。そして、 「ワシの方に未練は無いようじゃが、ひょっとして、残る理由は、どうやらキミの方にあるんじゃないのかな?。」 と、ショーは腕組みしたまま、ジンを真っ直ぐに見た。 「え?、ボクにですか?。」 「そうじゃ。魂が救われたいと、そう願った瞬間から、人は成就出来る道を探そうとする。そういうのを、発心というんじゃ。キミはスナイパーという仕事柄、人を人とも思わぬ、そういう所業で生きてきたじゃろ?。」 「・・・ええ。確かに。」 「そういう、唯物論的な鋼の心が、キミを今日の名手にまで導いた。じゃが、これまでとは違う、何か善行のようなものを、キミは最近、行わなかったか?。」 ショーはしげしげとジンを見ながらたずねた。ジンはいわれるがままに、つい最近の出来事を思い出してみた。そして、 「あ!。そういえば、アナタを撃つ前、鳩を一羽助けました。」 ジンはさっき起きた出来事を思い出すと、そうショーに告げた。 「おお!。それじゃよ!。それこそ発心。キミがこれまでのことを悔い改めて、生き直す契機!。それを知らんがため、ワシはこの世に引き止められておったのじゃ!。」 ショーがそういうと、彼の体はスーッと透明になり、フワフワと宙に浮かび始めた。 「ほーっほっほっ。これでワシも昇天出来るわい!。善き話を、有り難うよ!。さらばじゃ。これからはキミも善人として暮らすがいい。ほーっほっほっ。」 完全に透けた体になって、ショーは天に召されていった。それを見つめながら、ジンも何か良いことをしたような、そんな気分に満たされていった。そして、にこやかに天を見つめるジンを、やはり周囲の客は奇異な目で見つめていた。そのことに気付いたジンは、取り繕うように座り直すと、三度新聞を読み始めた。 「さて、これで心置きなく、仕事を続けられ・・、」 そう考えたジンだったが、 「って、そんなの、出来るかよっ!。」 と、新聞をテーブルに叩き付けながら、怪訝そうにレジに向かった。しかし、その眼は爽やかに澄み切っていた。
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