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「いっそうポルターガイストは激しさを増して所長を襲ったんです。もう所長は泣きながら土下座して謝り続けてました。その惨めな姿ったら……」
クックックッ、と美月さんは口を押さえた。
「私はその姿を動画に撮りSNSに投稿しました。これで所長は世間の笑い者だと言うと、ポルターガイストはおさまりました」
所長の悪事が公表され、やっとえっちゃんは恨みを手放す事が出来たのだろう。
「えっちゃん、えっちゃん……」
どの扉も開かなかった。テーブルの上の10円玉も動かなかった。本当に成仏しちゃったんだね、えっちゃん。
ちょっと寂しい……ううん、喜んであげなきゃいけないよね。えっちゃん、安らかに眠ってください。
久しぶりに爽やかな朝だった。良く眠れた。珍しく早起きしたので洗濯をした。雲ひとつないお天気。帰る頃には乾いているだろう。
すっかり通りの良くなった排水管たち。もう詰まる事はなかった。
「おはよう!」
「え、おはよう。あれからどうでしたか?」
「快調快調〜。良く眠れたよ」
「へー……」
美月さんはそっけなく応えた。つまらなそうだ。
せっかく笑い始めた美月さん。美月さんの笑いのツボが心霊現象だとは分かったが、そんなに心霊現象なんて起きるわけがない。私だって今回が生まれて初めてだ。
さて、美月さんを笑顔にするためにはどうすればいいのだろうか。
「そう言えば蓮くんまだ来てないね」
お礼を言いたかったのに。
粛々と授業は進み、1日が終わった。結局蓮くんは学校に現れなかった。実は体が弱いのだろうか。
「明日は声楽があるね。美月さん歌は得意?」
「大っ嫌いです」
「えー。保育園や幼稚園では歌わなきゃいけないのに」
「ピアノは得意なので伴奏に徹します」
それで先生が出来るのだろうか。笑わない、歌わない先生……新しいかも。いや、ダメだ。子どもの情操教育のためには笑顔が必要だ。笑えるようになって欲しい。
美月さんは帰り道ずっと仏頂面だった。我が家で怪現象の起きている時は笑いたくてウズウズしてたのに。
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