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「あれ?」
それに気付いたのは、玄関から出てすぐのことだった。
まだ誰にも踏み荒らされていない新雪の、一部が少しへこんでいた。雪をズンズン踏みしめながら近付いてみると、どうやら誰かの足あとらしかった。まだ雪が降っている最中に付いたものらしく、後から降った雪に少し埋もれていた。
「な~んだ。わたしがいちばんだと思ったのに~!」
「ん? どうしたどうした?」
悔しがる私の声に、父が寝巻の上にコートを着ただけの恰好で飛び出してきた。寒いだろうに、父はとても心配性だったのだ。
「だれかがいちばんのりしてたみたいなの~」
「へぇ? 誰だろう。お隣さんかな」
私の足あとを踏まぬように、父が少し遠回りで後を追ってくる。
――と。
「……これは」
「ん? どうしたの、パパ?」
父は私が発見したその足あとを見るなり、深刻そうな表情を浮かべて押し黙ってしまった。その視線は足あとの行方を追っている。
私もつられてその行方を追う。どうやらその足あとは、大通りの方から歩いてきて我が家の前で立ち止まり、そのまま引き返しているようだった。
しかも幾つかの足あとは、つま先が我が家の方を向いていた。それはまるで、足あとの主が我が家の方を見ていたようで――。
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