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「まさか、な」
「ねぇ、どうしたのパパ?」
「いや、何でもないよ。きっと考え過ぎだろう……。パパは辺りの雪かきをしなきゃいけないから、手伝ってくれるかい?」
「うん!」
その日は父と二人でせっせと雪かきをしたり、雪だるまを作ったりした。
お昼頃には、お隣さんやお向かいさんも起きてきて手伝ってくれて、それはそれは楽しい思い出になった。
道路の雪はすっかり片付いて、「ようやく車を出せるね。誰も持ってないけど」だなんて、皆で笑いあったものだ。
――それでも、そんな楽しい時間の中でも、私にはどうにも気になることがあった。言うまでもなく、あの足あとのことだ。
父は足あとの主に心当たりがあるらしい、ということは九歳の私にも分かった。それを私には悟られたくないということも。
あの足あとの主は誰なのか? 何時くらいにやって来たのか?
足あとの主がやってきたのは、昨晩だけなのか? それとも前にも来ているのか?
色々と気になって仕方がなかった。
実は、当時の私には足あとの主に心当たりがあった――というか、そうであって欲しい人がいた。「母」だ。
父からは、母は私が赤ん坊の頃に死んだと聞かされてきた。けれども、我が家には位牌の一つもなく、母の写真さえ殆ど残ってない有様だった。
だから私には、「ママは離婚して出て行っただけで、実は生きているのでは?」という疑念がずっとあったのだ。
足あとの主は、昔出て行った母ではないのか? こっそり私達の様子を見に来ているのではないのか?
子供らしい短絡的思考でそう思い込んだ私は、足あとの主の姿を確認すべく、父には内緒で準備を始めた――。
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