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四章
「……うん、会心の出来」
唇を筆でなぞられてしばらく後、新島のすっきりした声がした。
「ちょっ! 声!」
舞帆が目を剥くと、新島は高く結ったお下げのウィッグを揺らしながら笑う。
「さっき帰ってたから大丈夫だよ」
舞帆はその場で立って一回転したが、確かに同じ制服を着た女子達の姿はなくなっていた。
「管原さんはメイク前の保湿に時間かけたから、あの人達より完成が遅くなったんだよ」
「そっか。あぁー……良かったぁ」
舞帆はくたくたに煮たモヤシみたいに背もたれにしなだれかかる。
「ちょっと着替えてくるから待ってて。一緒にドラッグストア行こう」
「え、バイトでしょ今?」
「元々残業なんだ。どうせ帰るから、時間大丈夫?」
「あ、パック? 気にしなくていいよ」
「ダメだよ! 刺激が強い奴だと普通肌でも肌荒れしちゃうからね。管原さん100円のパックとか適当に買うでしょ?」
子どもに言い聞かせるように「絶対待っててね!」と言い残し、新島は事務所の方に走っていった。ハイヒールで走りにくそうにしているのが面白い。
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