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ロトがどうして宇宙に興味を持っているのかは分からない。
それでも宇宙に興味を持つ気持ちはなんとなく分かった。
「宇宙魔法学っていう授業が学園にあってね。受けたいって言ったら、まず自分の授業をやれって怒られて……受けられなかったの」
残念そうにしているロト。
それはそうだろう、とも思ったが、自分の身に覚えがないわけではない。
藤田も苦笑する。
「俺も他の学会に顔を出したいって言ったら、今ある学会の発表をやれって怒られたな」
ロトと藤田は、どこか似た部分があるのかもしれない。
ふふ、と笑ったロトは静かに下降し始める。
いつの間にか、宇宙船の近くにたどり着いていた。
藤田が乗っている箒も、ゆっくりと下がり始めた。
とん、と地面に降りたロトが、宇宙船を見上げる。
藤田も地面に降りようとしたところで、足が滑って尻もちをついた。
「あっ、大丈夫?」
藤田の音に振り返ったロト。
「大丈夫。ちょっと滑った」
「ごめん、足場悪いよって言えばよかったね。この辺り、滑りやすいの」
湿地に近いのだろう。
地面が少しぬかるんでいるため、転んでも怪我はしない。
泥で汚れた服を見て、ロトが魔法で服を綺麗にしてくれた。
この服も、借りているものだ。
ロトは小柄なため、同じく小柄な鹿野くらいしか服が合わない。
藤田と松原は、二人よりも背が高かったスクの服を借りている。
スクは成長期のため、まだ背は伸びるのだろう。
「ありがとう」
宇宙船に近づいて見てみると、やはり外側はかなり傷んでいる。
これは……と藤田は眉をひそめた。
ワームホールという強重力空間を抜けたのだから仕方ないが、相当な負荷がかかったらしい。
よくこの程度で済んで潰れなかったものだ、と感心する。
「そういえば、これ開けっ放しにしちゃってたけど……大丈夫かな?」
ロトが宇宙船の入り口を見る。
確かに入口が開いたままになっている。
「雨って降った?」
「雨? ううん、ずっと晴れだったよ」
「なら大丈夫だよ」
水に濡れていたら怪しいが、雨が降っていないのならおそらく平気だろう。
「とりあえず中の様子を見たいな……入れてくれる?」
ロトの顔を見れば察してくれたのか、手に持っていた箒ごと藤田を浮かせてくれた。
そのままふわりと宇宙船の中に着地する。
「ありがとう。本来ならはしごが降りてくるはずなんだけど、出てきてないから」
「あ、そうなの? 魔法で開けたから、変わっちゃったのかもしれないね」
ロトも箒で浮いてから中に入ってくる。
人をそのまま浮かせるよりも、箒で浮くほうが楽なのだろうか。
藤田は宇宙船の内部を覗こうとして、苦笑した。
「真っ暗で何も見えないな」
ここは夜の森の中だ。
外にいたときも、衛星の頼りない弱い光しかなく、かなり暗かった。
宇宙船の内部はすべて電気で動いており、窓という窓も少ないため、電気が止まってしまえば真っ暗になる。
「灯りをつけようか」
そう言うと、ロトはポケットから杖を取り出して、杖の先に光を灯した。
一応杖も持ってきていたらしい。
魔法は便利なものだ、と藤田は改めて思った。
ロトが灯した光は、意外と広範囲を照らしてくれる。
ロトが杖を軽く掲げただけで、宇宙船の内部がはっきりと見えるようになった。
「ありがとう。ちょっと待ってね、損傷を確認してみる」
藤田はパネルが並ぶ運転席に向かった。
まずは電気系統が動くかどうかを確認する。
「ま、案の定といえば案の定なんだけど」
何を押してもまったく反応しない。
うーん、と顔をしかめながら手順通りに確認を進めていく藤田を、物珍しげに眺めているロト。
邪魔をしてはいけない、と思っているのだろう。
ロトが近寄ってくる気配はない。
「これは発電機がダメになってるな……予備電源はどこだっけ」
しゃがみこんでいろんな場所の蓋を開け、予備電源のバッテリーを見つけた藤田。
本体の発電機に繋がっているケーブルをすべて抜き、予備電源のバッテリーに繋ぎ直してみた。
ピコン、という電子音が聞こえて、藤田はパッと顔を上げる。
システムの起動音だ。
パネルに電気が流れ、正常に動き始めたらしい。
光り始めたパネルを見て、ロトが目を丸くした。
「なにこれ、すごい……魔力がないのに、動いてる」
ロトの言葉に、藤田は苦笑する。
「そっか。ロトからしたら、俺らのこれの方が不思議なんだよね」
「うん。すごく不思議。フジは今何をしたの?」
宇宙船に変化が現れたことによって、ロトも興味を持ったらしい。
少し離れた場所から見ていたロトが近寄ってきた。
「これはね、電気っていうので動いてるんだよ。鹿野が雷について話してたでしょ?」
「雷……あ、雷は電気っていう話?」
「そうそう。その電気」
へえ、と珍しそうに予備電源のバッテリーを観察している。
この惑星には電気という概念がなさそうだ、というのはロトとスクの反応からも察していた。
夜になればつく家の明かりも、どうも魔力が込められた道具の一つらしい。
魔力を持つ人が近づくと、その魔力に反応して明かりがつく。
そのため、藤田や松原が廊下を通っても反応せずに真っ暗なまま、ということはよくあった。
「これ、ずっと電気ってのが出るの? なくなったりはしない?」
ロトが気になったらしく、藤田を振り返った。
「あ、それで思い出した。非常用電源ってどうなってるんだ?」
予備電源はバッテリーであるため、発電はしてくれない。
緊急時に近くの惑星に不時着できるように、時間稼ぎをするものでしかなかった。
近くに惑星があるとは限らない場所まで行くような、長距離航行をする宇宙船には非常用電源の設置が義務づけられていた。
宇宙船エクリプス152便も長距離航行をする宇宙船であったため、発電をしてくれる非常用電源が備わっている。
この発電機も確認してみれば、どうやらこれも無事らしい。
とりあえずよかった、と一安心。
そこでロトの質問を思い出し、ハッと振り返った。
「ごめん……答えてなかったね」
「いいよ。確認したいことが多そうだから」
ロトは肩をすくめた。
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