#夜の空

1/3
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

#夜の空

宇宙船があるところまで連れて行ってくれると言うから、いつかと思えば今からだそう。 マントを羽織って庭に出たロトを見て、慌てて藤田も後を追う。 ん、と箒を一本差し出されて、藤田は困惑した。 「え、箒?」 当然のようにロトは箒に座ろうとしていたが、受け取った箒を見つめている藤田を見て「あ」と声を上げた。 「そうだった、飛べないよね。ごめん、スクと同じ感覚になってた」 頭を掻いたロト。 移動手段として箒で空を飛ぶのはよくあることらしい。 藤田も生活に少し慣れてきたとはいえ、さすがに魔法を使うことはできないため、空も飛べない。 ロトも藤田たちの存在にかなり慣れてきたのだろう。 「箒にまたがってくれる?」 言われた通りにまたがると、ロトがなにやら魔法をかけている。 「これで大丈夫。あとは箒から落ちないように気をつけてね」 「気をつけるって言われても」 ロトは自分の箒に座って、ふわりと浮き上がる。 そのまま空に上がっていくロトを見ていたら、藤田がまたがっていた箒も浮き始めた。 「わわっ」 慌てて箒を掴む。 少しバランスを崩したら落ちてしまいそうだ。 「おー、センスあるじゃん。僕、初めて箒に乗ったときは何回も落ちたよ」 藤田が落ちずにロトがいる場所まで浮き上がってきたのを見て、ロトが笑っている。 「落ちてはないけど余裕はない」 藤田はそもそも高所が得意ではない。 カチコチになっている藤田を見て、またロトが笑う。 「大丈夫だって。僕もこの間、箒から落ちてるんだから。ずっと乗ってても落ちるときは落ちるから、そんなものだよ」 「ほら、あれ見てよ」とロトが指差している先を見て、藤田は目を丸くした。 森の中に落ちている宇宙船。 なるほど、宇宙船を知らなければ大きな白いものが落ちてきた、と思うはずだ。 ぐしゃぐしゃになることを覚悟していた割には、綺麗にそのまま残っている。 辺りを見渡してみて、ロトの家も森の中にあることが分かった。 ちらほらと明かりが灯っている街らしきものも遠くに見えるが、暗いためよく分からない。 その街の近くに、大きな城のような建物もある。 西洋と称されていた地域にある城と似ている。 その建物を見ていることに気づいたのか、ロトが振り返った。 「あぁ、あれ? あれが学園だよ。結構近いでしょ」 そう言ってロトは肩をすくめる。 「ちか……近いかなあ?」 藤田は首を傾げる。 かなり大きな建物であることは分かるが、それでも遠くにあるように見える。 「飛んだらすぐだよ。歩いたら半日くらいはかかりそうだけど」 「あぁ、なるほど」 それなりの距離があるように感じたのは間違いではなかったらしい。 空を飛ぶとなると『結構近い』になるんだな、と藤田は一人で納得する。 「どうする? その、宇宙船の近くまで行く?」 首を傾げたロト。 「うん。お願いします」 「わかった」 ゆっくり飛び始めたロトを見て、気を遣っているのだろうか、と思った。 空を見上げれば、たくさんの星が見える。 地球とはまったく違う星の見え方だ。 そして、二つの衛星らしき天体も見えた。 地球の月と比べればかなり小さいが、この惑星の大きさが分からないため、標準の大きさなのかどうかも分からない。 「ロト、この惑星って衛星もあるの?」 前を飛んでいるロトに聞くと、ロトは振り返った。 「エイセイ? エイセイってなんだっけ……あぁ、衛星!」 ロトの発音からして、どうやらうまく言語通訳が働かなかったらしい。 ロトやスクと会話をしていると、たまにそんなことがある。 藤田もロトやスクが言うことが聞き取れないことはあるし、聞けば鹿野と松原もそうらしい。 ワープトンネルがワームホールと変換されず、そのまま聞こえたのもその一つだったのだろう。 本来はまったく違う言語を話しているのだ、と改めて感じる瞬間だ。 「衛星はあるよ。えっとね、ソルセルリーは四つかな」 「四つもあるの?」 藤田の言葉に、キョトンとしているロト。 「え、衛星ってそのくらいあるものじゃないの?」 はっとした藤田。 地球の感覚で反射的に言ってしまったものの、衛星が複数ある惑星というのは珍しくもない。 「惑星によって違うんだよ。地球の衛星は一つだけ。衛星にしては結構大きめなんだけど」 「あれ、そうなの? 違うものなんだね」 ロトも空を見上げる。 黄色の光を放つ衛星と、白く光っている衛星。 「右の黄色いのがプルミエ、左にある白いのがオーブっていう名前だよ」 あれとあれ、とロトが指差した方向を見る限り、やはり衛星で間違っていなかったらしい。 にしても、あと二つ衛星があるとは。 空を探してみるが、衛星のようなものは見えない。 「他の二つは見えないの?」 「うーん、たまに見えるんだけど……今日は見えないね。あとの二つは、モマンとエテって名前」 衛星については僕も詳しくはないんだよね、とロトは苦笑いしている。 ロトは尋ねればいろいろと教えてくれるが、物事によってその知識量には差がある。 基本的なことは知っていても、専門的なことまでは手が回っていないのだろう。 そもそも、ロトが担当している授業は水魔法学だと言っていた。 宇宙のことは専門外なのだから仕方ない。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!